5. 神社

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 立ち上がり、水をすくって向き直ると、犬は耳をかすかに震わせながら、参道の先を見ていた。  同じ方向に目を向ける。ショートヘアの女性が、鳥居の向こうからこちらの様子を覗っている。  一瞬目が合うが、すぐに女性は視線を逸らす。  まあ不審者だよな――自分でも思う。  かといって、変な真似でも起こされたら面倒だが、力ずくで何かするわけにもいかず……となると、さっさとこの場から離れるしかなかった。  掌の水を捨てた俺は、新たにすくった水で顔を洗い、シャツの袖で拭う。  犬がいない。そのまま後ろを振り返る。  犬はいつの間にか近くに来ていた女性の足元で、腹を見せて横になっている。  しゃがんでそのお腹をやさしく撫でていた女性が顔を上げる。  暗闇でもなかなかの美人だということがわかる。けれども、年齢は、想像していたよりもずっと下のようだった。
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