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どちらへ行くべきか。
いや、違う。アイツらがいないのはどの方角か。
自らの呼吸と反響した人々の雑踏によって加速された焦りと恐怖が、冷や汗となって皮膚を伝う。
静かにしてくれと何度念じても、雑踏は一瞬たりとも止まない。
その時、俺の中で何かが弾けた。と同時に、「キェえぇエえぇぇえ」と奇声を発していた。
一斉に足を止めた人々がこちらを見る。その様子に、イヤホンで聞こえていなかった人間も足を止め、視線の先にいる俺の姿を認める。
だが、とにかく俺は気配を感じようとしていた。
驚異で凍りついた世界は、すぐに溶け始めていく。
後ろと右――そう感じ、左へ駆け出す。
デパート傍の地下鉄の改札口前を通り過ぎる。途端に、人の流れが変わり、前から歩いてくる人波に、なかなか前へ進むことができなくなる。
すいませんと繰り返しながら、僅かなスペースに身体を滑り込ませるが、スピードは明らかに落ちていた。
ならばこれしかなかった。
「どいてくれ! どいてくれよおおおお!」と、再び気が狂ったように叫ぶ。
恐怖の表情と共に人込みが割れ、その間を「アアあアアアアああ」と奇声をあげながら駆け抜ける。
それは救急車のサイレンよりも有効だった。
左右に並ぶブティックから、何事かと店員や女性客が恐る恐る覗き込んでいる。
「怖いか? 怖いだろう」
俺は愉快だった。人々の視線はスポットライト同然だった。
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