3. オフィス街

1/2
前へ
/68ページ
次へ

3. オフィス街

 人込みを抜け、とにかく人の少ない方へと地下道を走り続けた後、地上へ続く階段を一段飛ばしで駆け上がる。  そこは繁華街とは駅を挟んで反対側にあるオフィス街だった。  人気のない薄暗い歩道を走りながら、周囲にそびえ立つ高層ビル群を見上げる。 「あのてっぺんから飛び降りたら、さぞ気持ちいいだろうな」  何とはなしにそんなことを考える自分に鳥肌が立つ。  視線を落とす。足元では、街灯に照らされた俺の影が、はしゃいでいるかのように伸び縮みしていた。  人の少ない場所に来てホッとしたのか、急に空腹を感じる。  最後にちゃんとした食事をしたのは、ちょうど24時間前に食べたインドカレーだった。  そして、同じ店で一人カレーを食べていた女性を飲みに誘って入った沖縄料理屋で、俺はずっと彼女の愚痴を聞いてあげた。 「小さい頃から、ファッションデザイナーになりたかった。専門学校を出て、今の店に入ったけど、この頃はその夢から遠ざかっている感じしかしない」  アパレル関係の仕事をしているという彼女の言葉に、「大変だね」とか「そんなことないんじゃない?」と、とにかく優しい言葉をかけ、それから、彼女のアパートでセックスした。  彼女は特別美人というわけでもなかったし、体型がタイプということもなかったが、後ろから突いた時の背中の反りは綺麗だった。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加