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「なんでこの状況でこんな事を思い出しているんだ?」と思いながら、周囲を見まわす。
アイツらの気配はなかった。けれども、アイツらが諦めたとは、到底思うことができなかった。
高層ホテルを見上げる。すぐにでも、そこにあるであろう皺のないシーツの敷かれたフカフカのベッドに飛び込んで、甘美な夢に溺れたかった。
大通りの交差点にかかる歩道橋の途中で足を止める。
柵にもたれかかりながら呼吸を整えつつ、下を通過する自動車を眺める。
自分の足を使わずにどこかへ行くことができる――まったく、素晴らしいことだった。
それにしても、これだけ走ったのはいつぶりのことか。
あまりの息苦しさに煙草を吸う気もしない。
代わりに、道路に向かって唾を落とす。
車間に落ちた唾を眺めながら、どこへ行けばいいのか、どこまで行けばいいのか考えてみたが、うまく思考がまとまらなかった。
それでも、とりあえず行ける所まで行くしかない――そう考え、歩道橋を渡る。
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