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1・発散堂の夜
新宿百人町の雑居ビルの4階に『発散堂』のオフィスがある。
店主の御手洗幸一は、夕方も6時を回ろうとしている頃に二日酔いからくる頭痛に頭を抱えながら、カップみそ汁の『あさり』をすすっていた。
冬も間近だというのにアロハシャツにスカジャンを羽織って、八分丈の麻ズボンに雪駄。足を投げ出しソファーに横になりスポーツ紙を見ている。
ゴールデン街を4軒はしごしてからは、起きるまでの記憶がない。当たり舟券で儲けたウン万円を使い果たしてしまった。
部屋の隅につり下がったBOZEのスピーカーから、ボサノバの女王、アストラッド・ジルベルトの『Meditation』 がのびやかに響き渡って、御手洗の眠りを誘う。
「菜月ちゃーん」
「はーい」5年前、日光の忍者村からスカウトした唯一のスタッフ、早乙女菜月は今日はチャイナドレスでのお出ましだ。太ももまで入ったスリットが御手洗の視線をシャキンとさせた。
「今日の予約は?」御手洗の酒焼けした声。
「今のところ入ってないです、電話待ちでーす」
「悪いが相談内容によっては、菜月ちゃんに行ってもらおうかな」
「飲みすぎですよ、若くないんだから」
「チップは弾むから、はい、まず前金」御手洗は菜月のガーターに諭吉を1枚挟み込む。
「もう御手洗さんのH~、毎度あり~」
ふいに銭形平次の着メロが鳴りだす。
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