64人が本棚に入れています
本棚に追加
5. Divergence!
新宿の代名詞でもある新宿××ビル屋上。
「決行時間です。では、始めましょうか」御手洗はできた指名手配イラストの束を亜季に渡した。
「リュリュママ様、お好きなように拡声器でお叫びください」
「斎藤隆のろ・く・で・な・し―――――!」白い紙片が新宿の淡く明るい夜空に大量に舞った。それはたゆたう雪のようにふわふわと舞って、ネオンの輝く地上へと吸い込まれていった。
*
「では、今度は移動します」御手洗はビルの下にあるワゴン車に亜季を乗せる。
多摩川沿いの道路を御手洗の運転でワゴン車が進んでいく。車のサンルーフを開けて亜季は指名手配イラストをパラパラと捲いていく。
シャキッとした初冬の風がピューピューと吹きかかるが、亜季には逆に気持ちがよかった。
ワゴン車は選挙でも使えるスピーカーつきである。
亜季は走行中、マイクを握って大きな声で叫ぶ。
「男なんて絶滅しちゃえー!」
「人間のくずー!」
「もう人間なんて信じないー!」
対向車のドライバーは笑って、手を振る。
やがてワゴン車は夕闇の多摩川の河口にまで到着した。
羽田空港から離発着する大きなジェット機の轟音に負けじと亜季は叫ぶ。
「あたし1人で生きてみせるんだからー!!」
機体のナビゲーションライトが赤く点滅し亜季の声を嘲笑うようにかすめて飛んでいく。
「人生、負けてたまるもんかー!」亜季の頬には雫が滴り落ちていく。
御手洗はカーステレオの音量を最大にした。
曲はAL GREEN の『Love & Happiness』
御手洗は微笑みながらハンドルから手を離し、もっと叫んで、とジェスチャーした。
本日1件目の仕事、10万3500円なり。
おわり
最初のコメントを投稿しよう!