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「500万くらいかな? 二人で1500万。ふたりの資金口座を新しく作ろう」斎藤が提案した。
*
物件が決まったのはそれから2週間後だった。多摩川の下流で私鉄線が走っていた。駅も近く8階からの眺望も最高だった。亜季はペット専用シャワーがついているところが気にいった。築5年だが新築に近い状態で4200万だった。
「決めちゃいますか?」亜季は覚悟を決めたように、斎藤に言った。
「そうだね、4200万。緊張するな―」斎藤は嬉しそうだ。
話し合って1200万を頭金に当てることにした。
契約の日、亜季は仕事だったため、朝、斎藤は二人で作った新しい口座の通帳とカードを持って、「銀行に行く」と言った。名義も男の人の方が安心だと思った。
*
斎藤隆はそれ以来消えてしまった。ポン太とともに。
*
「ふざけんな!」亜季は多摩川の向こう岸に向かって叫んでみる。怒りがふつふつと湧いてくる。
「馬―鹿!」何回叫んだろうか、疲れて座り込んだ。携帯には何の連絡もない。斎藤に電話をかけてみる。
〈おかけになった電話は、現在使われておりません〉
亜季は、訳もなくガーグルの音声検索に「馬鹿野郎!」と声を発してみる。
検索した画面には『馬鹿野郎の言葉辞書』『特選 幻の焼酎・馬鹿野郎』などが表示された。「ふん!」亜季は鼻で笑った。
しかし、一点、気になる文字が目に入った。
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