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「ありがとうございます」
膝をついて私に深々と頭を下げる猫さん――改め、夜さん。
「いや、そんな土下座みたいなことしなくても……」
「一生未来永劫貴方に仕えることを誓います」
「ええと……回復するまででいいんですからね? 無理しないでくださいね?」
深夜の大濠公園。
金髪でギラギラしたその筋っぽい男と、よれよれリクルートスーツの女。
そしてその目前で深々と地面に額を擦り付ける若い男。
――だめだこれ、絶対ヤバい修羅場に見える。
「んじゃ、明日改めてうちの会社で仕事と今後の生活について聞かせてもらう」
スッスッとタブレットで手際よく段取りを進めていく篠崎さんの隣で、私は夜さんに手を差し伸べる。彼は私の手を取り立ち上がった。
「心から感謝する」
「そんな何度も言わなくていいですよ」
「これから世話になるから当然だ」
「え、うちで暮らすつもりですか……?」
「違うのか?」
思わず引いてしまった私を前に、彼はきょとんとした顔で首をかしげる。
「さすがに人間の男性の姿になれる猫を、実家に連れて帰るのはちょっと……」
「庭先でも構わないが」
「それは、私の倫理観がとがめるというか……」
「しばらくは事務所に住んでいい。その後の事はまたおいおい考えよう」
助け船を出してくれた篠崎さんの言葉に、夜さんは素直に頷いた。
そして私の手を握り、薄く微笑みを浮かべる。街灯の明かりに照らされるつるりとした顔は、モデルさんのように整って綺麗だと思った。篠崎さんといい夜さんといい、あやかしの男性みんな綺麗なのだろうか。
「楓殿。一緒に暮らせないのは残念だが、何かあれば必ず俺は力になろう」
「はい。お互いに社会生活頑張りましょうね!」
「……」
「……あの、……手……離さないんですか?」
その瞬間。彼は切れ長の目元に恍惚を浮かべ、ぺろり、と唇を舐めた。
「美味しい……」
そのまま。するりと指が絡められて――
「へ!? あっ!?」
「だだもれ霊力盗み食いすんじゃねえ!!!」
篠崎さんが強引に私たちを引きはがす。
「とにかく一旦解散だ! 車で家まで送ってやるから、さっさと来い!」
私はそのまま篠崎さんのご厚意に甘えて、大濠公園から香椎の自宅まで送ってもらうことになった――
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