どんな結末になっても

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どんな結末になっても

 私はこの世で一番愛する人の顔を見たことがない。 私が光を失った後に出会ったから。 突然の事故で、私は両親と視力を失った。 最後に見たのは、後部座席から見る両親の後ろ姿……。 前から突っ込んできた車のライトがとても眩しかったことしか覚えてない。 両親のいない世界は真っ暗で、私は塞ぎ込んだ。 せめて兄妹でもいたなら、この絶望感が少しでも減っただろうか。 そんな時、私を助けてくれたのが彼。 私は彼の素性を何も知らない。 それでも彼は何も見えない私に手を差し伸べ、隣で寄り添ってくれた。 「どうして私に優しくしてくれるの?」 そう聞いた私に彼は言った。 「何も見えないのは怖いよね。 僕は目は見えるけど、自分が見えないんだ。 それになぜか君に惹かれてる」 どういうことなのかわからない。 でも私も彼に惹かれていた。 彼の手をとる。 彼の手には指が1本ない。 私が彼に指をあげられたらいいのに。 私達は一緒に住むようになった。 結婚式はできないけど、一緒に住むことは伝えたい。 私は叔母に連絡することにした。 優しい叔母はきっと、彼に会ってくれるだろう。 そして祝福してくれるはずだ。 「もしもし、叔母さん」 照れながら、彼のことを伝える。 思った通り、叔母さんはとても喜んでくれた。 嬉しいと涙を流して祝福してくれる。 私もつられて泣き出しそうになった時、叔母さんが言った。 「そのうちみんなで食事くらいしましょうね。 大樹君の行方はまだわからないけど、私はあの子はいつか帰ってくるって信じてるのよ。 帰ってきたら伝えましょう」 ……? 大樹君?? 無言になった私に誤解したのか、叔母さんは続けた。 「昔あなたをかばって怪我したでしょ? あんないい子、他にはいないわ。 少し道を踏み外してしまったのかもしれないけど、お父さんもお母さんもあの子の帰りを待ってたのよ」 そうだ。 思い出した。 どうして忘れていたんだろう。 大樹は私の兄。 優しくて、大好きだった。 公園の遊具から落ちた私をかばって指を挟み、切断することになった。 その指のことでからかわれ、ヤンキーグループとつるむようになった。 そしてある日、大樹は出て行った……。 私の隣にいる優しい大好きな彼。 彼には1本指がない。 そしてここ数年の記憶も…。 だから私達は結婚することができない。 それでもいいと思っていた。 次の日、私は叔母と彼を呼び出した。 これでわかる。 これでいいんだと、自分に言い聞かせながら……。
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