優しすぎる彼

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優しすぎる彼

 私達の出会いは運命的だった。 彼が落とした携帯を拾った私。 焦って電話をかけてきた彼と待ち合わせ、私達は出会った。 彼は写真を撮るのが趣味で、私は見ることが好き。 すぐに意気投合した。 お互いの気持ちは口に出すまでもなく、私達は恋に落ちた。 それから私は毎日のように連絡をとった。 「仕事が忙しくなったから、しばらく電話に出られないんだ」 仕事の邪魔はしちゃいけない。 でもあまりに辛そうに言うから、私は彼に会いに行くことにした。 驚かせたかったので、会社の前で待つ。 雪が降るとても寒い日で凍えそうになったけど、彼の喜ぶ顔を思い浮かべると我慢できた。 彼が出てきた! 声をかけようとした私の目に飛び込んできたのは、同僚らしき綺麗な女の人と腕を組む彼の姿だった。 「こんな所でくっつくなよ」 彼は嫌がっていたけど、彼女を無理やり引き離すことはしなかった。 どうやら彼女に恥をかかせないうにしているようだ。 本当に彼は優しい。 優しい彼は今とても忙しい。 それなのに別のことでも気をつかうなんて可哀想。 彼の悩みは私が解消してあげたい。 コール音が鳴る。 そう、いつも忙しい彼は50コールくらいしないと電話に出られない。 「…はい」 憔悴したような声。 私と会えなくて、そんなに辛かった? 仕事もまだ忙しいのね。 「ねぇ、まだ忙しいの?」 「ああ」 「仕事なら仕方ないね。 でももう一つの厄介ごとは片付いたでしょ?」 その途端、彼の喚き声が聞こえてきた。 私を罵っている。 「私はあなたの為ならなんでもできるの。 あの人は私達の邪魔にしかならないでしょ? 私達は運命の相手なんだから」 「彼女に何をした!!」 「別れてって頼んでも聞いてくれなくて…… 先に手を出したのは向こうよ。 私をストーカー呼ばわりして、自分が婚約者だって言い張って…。 ねぇ、あの人は危ないわ。 だから軽く押しちゃったの。 あなたと私の思い出の場所を汚すは嫌だったんだけど……」 そうそう、 彼の携帯は崖の上で拾ったの。 有名な絶景スポットと同時に、自殺の名所でもあるあの場所で……。
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