天国か地獄か

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天国か地獄か

 「あなたが好きです」 会社から駅までの道で、急に声をかけられた。 スーツをピシッと着こなした、サラリーマンみたいな人。 チャラいスーツじゃなくて、品のいいスーツを着た人。 通勤の人だらけ、会社の人にいつ会ってもおかしくないこの道で告白するなんて、変わった人だなぁ。 イケメンに告白されるのは嫌じゃない。 でも初対面の人にいきなり告白されてうなずけるほど、私は考えなしじゃない。 私ははっきり言ってモテる。 若い頃は何が正しいのかわからず、他人の家庭を壊してしまったこともあった。 でも、もうそんなことしない。 それからは意識していいことばかりしてきた。 偽善と言われるかもしれないけど…… 「すみません、急いでるので」 毅然と言い放ち、私は会社までの道を急いだ。 「あなたの顔が好きです」 次の日、皺ひとつないスーツを着た人は、また立っていた。 え? なんでまたいるの……? 私、昨日遠回しにお断りしたよね?? 今度は走って通り過ぎる。 振り返ると、彼はもういなかった。 「あなたの体が好きです」 「あなたの匂いが好きです」 「あなたの性格が好きです」 それから毎日彼はいて、愛の言葉を囁いてきた。 正直関わりたくなかったし、怖かった。 「今度は警察を呼びますよ!」 強い調子で言うと、彼はまた姿を消した。 次の日から彼はいなくなり、私に平穏が訪れた。 2週間後…… 私はあの道で、信号無視のトラックにはねられた。 「もうだめだ」 首を振る救急隊員の顔がぼやける…… ああ、もう私は死ぬんだ… そう覚悟した時聞こえた、あの声。 「今までのことを全部まとめて、あなたの魂が好きです。 それでは私と一緒に行きましょう」 彼は天使なのか、死神なのか。 これまでの人生でしたいいことと悪いこと。 神はどちらを評価してくれるんだろう……。
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