始まりの日

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始まりの日

 私と彼との出会いはフラワーショップだった。 彼はそこで働いていて、私は客として訪れた。 何度か通ううちに、彼は私にブーゲンビリアの花束をくれた。 花言葉は、「あなたしか見えない」 お礼に私も彼にアイビーをプレゼントした。 花言葉は、「永遠にあなたを愛する」 そして私達は付き合うことになった。 ケンカした時、彼はカモミールをくれ、私はネモフィラを返した。 カモミール「許して下さい」 ネモフィラ「あなたを許します」 付き合って2年目の私の誕生日、彼は待ち合わせ場所に現れなかった。 一緒にお祝いしようねって言ってたのに……。 すれ違いが続いたある日、私の友達がこう言った。 「彼は私と愛し合ってるの。 私のお腹には彼の子供がいる。 だから別れて欲しい」 目の前が真っ暗になった私は彼の家に行き、 恋の終わりを示すチョコレートコスモスを置いた。 さようなら、大好きな人。 そして誰も知らない街に住み、仕事を始めた。 1人の生活は孤独だったが、何とか頑張った。 コツコツ貯めたお金で、夢だったフラワーショップを開いた。 たくさんの花に囲まれて過ごすのは嬉しかった。 どれくらいの年月を1人で過ごしただろう。 ある日電話でアレンジメントの予約が入った。注文を受けたのはバイトの子。 クロッカス、すもも、スカビオサ、スイセン、かすみ草…… 名前はなく、1週間後に取りに行きますとメモしてあった。 まさかとは思いながら、私はアレンジメントを作る。 もう一つ別に自分用の物も。 1週間後、おしゃれをして待つと、あの頃と比べて随分痩せた彼がやってきた。 私を見て悲しそうに微笑む彼に、自分用に作ったスターチスとブローディアのアレンジメントを渡した。 「驚きと受け入れる愛」 彼は私を大切そうに抱きしめた。  私の友達は彼を気に入り、相談があると呼び出して酔いつぶし、事後を装った写真を撮ったらしい。 彼は友達の嘘を信じ、彼女の言いなりになった。 でもその嘘に気づいた時には、私はいなかったそうだ。 彼は彼女を問いただし、彼女は 「騙される方が悪い」 と笑った。 その後姿を消した彼女の行方は未だにわからない……と。 それから彼は、話もせずに去った私のことをずっと探していたらしい。 「すもも=誤解、スカビオサ=全てを失った、すいせん=もう一度愛して欲しい、 かすみ草=あなたに会うことを切に願う」 これが彼からのメッセージ。 そしてクロッカス。 あなたは本当に私を愛してくれていたのね。  クロッカスの花言葉は懺悔。 でも私はそれにはふれない。 だって彼こそが被害者だから。 彼女を消した罪を悔い改める必要はない。 私達はもう幸せになってもいいはずだ。 今日の私の誕生日から、また始めよう。
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