私を満たして

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私を満たして

 人の価値は見た目じゃなくて、中身だと思う。 外見なんて、皮一枚剥げば皆同じ。 そんなものに興味はない。  ずっと誰かに見られている気がする。 気のせいかもしれないけど、何となく視線を感じて振り返っても誰もいない。 気にしないようにして彼氏の家に行く。 彼とは偶然近くの居酒屋で知り合い、意気投合した。 顔は普通。 服のセンスもないし、スタイルだって良くない。 でも私のことが大好きだ。 愛するより愛されたい私。 話しかけたのは私。 嫉妬させて告白されるように仕向けたのも私。 何度目かのデートの後で真っ赤な顔で告白された時は嬉しかった。 私のことで頭がいっぱいの彼は、他の誰よりも素敵だった。 もしかしたら、その時から彼に夢中になっていたのかもしれない。 私はもちろんOKした。 彼はまだ帰ってきていなくて、私は1人で雑誌を読む。 早く帰ってきて欲しい。 昨日会ったのに、もう会いたい。 そんなことを考えていたら、眠ってしまった。 カチャカチャ。 食器を並べる音がして目を開けると、外はもう暗くなっていた。 料理を並べながら彼が振り返る。 「起きた? 夕飯作ったんだけど、食べる?」 優しい彼。 好きでたまらない。 頷く前に、私は彼に抱きついた。 「お帰りなさい」 キスはまだしない。 だって我慢できなくなっちゃうから。  今日も彼の家に行く。 夕飯の買い物をして、帰ろうとすると 「ねぇ、一人?」 しつこく声をかけられる。 何の魅力もない男。 強く断ろうとした時、 「俺の彼女に用ですか?」 彼が現れた。 困っていると必ず助けに来てくれる。 まるで私がどこにいるかわかっているかのように。 その容姿をバカにされても、鼻で笑われても気にしない。 嫉妬した彼は誰よりも魅力的だ。  手をつないで帰る。 彼の横顔を盗み見る。 こんなに誰かを求めるようになるなんて、思わなかった。 彼への欲求が溢れて、抑えきれない。 毎晩彼の寝顔を見ながら、考える。 一線を越えてしまいたいと。 そうすれば、いつか彼が私の元を去るのを止められるだろうかと。 私は彼の全てが欲しい。    露出の多い服を着て、私は外へ出る。 彼はきっと見ているだろう。 つまらない男に声をかけられ、私は路地裏に入る。 腰に手を回され、キスされそうになる。 彼はきっと来る。 「おい、俺の彼女に何してるんだ⁉︎」 ほら、来た。 相手に殴られても何度も起き上がる彼。 滑稽なほど、私のために尽くす彼。 出血しても立ち上がる彼は、身震いするほど素敵だ。 彼に手を引かれ、抱き寄せられる。 あぁ……怒りと嫉妬で彼の血が煮えたぎるのがわかる。 俺のものだって言われてるような気がする。 今日こそ、彼を完全に私のものにしよう。 部屋に戻るなり、キスをする。 初めてのキス。 愛してる。 あなたが欲しい。 私のことだけ考えて。 私でいっぱいになって。 彼が私の首筋にキスをする。 お返しに私も彼の首筋に噛みついた。 彼の寝顔を見ながら、髪を撫でる。 やっぱり彼にして正解だった。 彼は私のストーカー。 随分前からつけられていることはわかってた。 もちろん私のことが大好き。 付き合ってからもずっと私のことを見ている。 それは愛だけじゃなく、いつか自分から離れてしまわないかという監視の目と、疑いの目。 彼は1秒だって、今の関係に安心したりしない。 彼につけられるようになってから、私は誰も襲わなくなった。 だって彼だけが欲しかったから。 好きという気持ちは、血を美味しくするの。 私のことが大好きな彼の血は誰よりも美味しい。 猜疑心や嫉妬心、執着心がプラスされて、彼の血は極上だ。 私達だっていつもどこでも人を襲える訳じゃないし、リスクを冒して飲む血がまずかったら最悪だ。 そう、彼はもう私の大切なパートナー。 もう彼なしでは満たされない。
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