1.延々と広がる草原

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1.延々と広がる草原

延々と広がる草原。 遠くのほうに町が見える。 日は沈みかけ、薄暗い空には夕日の放つオレンジのベールから現われるように小さな星が輝いていた。 そこは明らかに昨夜寝ついた自分の部屋ではなかったし、自分の家でもなかった。 しかも屋外。 その景色にまったく見覚えはない。 はっと気がつくとそこに立っていたのだった。 (ここどこ!?) 茉莉(まり)は慌ててあたりを見回す。 昨夜はいつものようにテレビを見て、風呂に入って、ベッドで眠りについたはずである。 それが、なぜか気がついたらこんなところに立っていた。 (なんで?なんで???) 「なんでーっ???」 「叫ぶな。うるさい」 絶叫したの背後から声が降りかかった。 「きゃあああっ」 突然のことに彼女は驚いて悲鳴を上げる。声の主は更に不機嫌そうに茉莉を見下ろした。 「うるせえ」 (中国語・・・?) 日中の二カ国語をこなす茉莉は彼の言葉を解して顔を上げる。 そして彼の顔を見てはた、と動きを止めた。 背の高い黒髪の青年。 クールな眼差しに茉莉の心は魅かれた。 (あ、カッコイイかも) そんな茉莉の眼差しも気にくわなかったのだろう。 不機嫌を露にしながらも、一言告げた。 「来い」 「え、でも・・・」 そんなことをいきなり言われても、ついて行って良いものかどうか迷う。 いくら好みのタイプだとは言えここは見覚えのない土地であるし、なにより彼は正体不明である。 しかし、鋭い威圧と有無を言わさぬ口調に茉莉はびびった。
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