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約束の日、約束の18時、彼は車で迎えに来てくれた。いちお帰りも送ってくれるらしい。もう暗くなってきた。
公園まで30分くらいで着いた。
「降りて。向こうで抱き合おう。約束だよね」
「わかってる!」
背丈ほどの木が、きれいに道沿いに植えられている。
「ねえ、どこまで行くの?」
どんどん歩いていく彼に聞いてみた。
「もうちょっと、あっちまで」
「なんで?ここでいいよ」
「いいの?ここで。距離ゼロの抱き合い方、するんだよ」
「わかってるけど、ここでいいよ」
「じゃあ、脱いで」
「え?」
「上、全部脱いで」
「は?なんで?」
「だから言ったろ?ここでいいのかって。もうちょっとこっち来て」
木と木の間に隠れるように引っ張られた。
「ちょっと!」
「ここで脱いで。僕も脱ぐから。裸で抱き合うんだ。肌と肌をぴったりくっつけて抱き合うんだ。それが距離ゼロだよ」
「え……」
ただ抱き合えばいいと思っていた。もちろん服を着たままで。それが、こんなところで服を脱げだなんて……
「やだ!こんなとこで裸になるなんて。裸で抱き合うなんて!」
「約束したろ?1度でいいんだ。これでお別れだ」
「嫌!!」
私は逃げ出した。約束がどうのなんて知らない!抱き合うのも裸になるのも嫌だ!なんか怖い!
とにかく走った。後ろを振り返らずに走った。
彼の車が止まっているのを見つけて、しまった!と思った。
駐車場の方へ来ちゃったんだ……こっちに来ちゃう!
もっと離れなきゃ!走らなきゃ!
少し先の公園のトイレの陰に隠れた。
はぁ…はぁ…はぁ…
そっと走って来た方を見ると、誰もいなかった。ほっとした。
キキィーーー
ん?あ!
数メートル先の道路に、見覚えのある車が止まった。
降りてきた人影は彼だった。
「送っていくよ。もういいから」
怒ってはいないようだ。いつも通りのトーンだった。でも怖かった。
ほんとに送ってくれるのか?何かするんじゃ……
変な意地もあった。
「乗らない!自分で帰るからいい!」
「ここから?歩いて帰る気?タクシーじゃお金かかるし。送るよ」
「いいって!」
私は歩き出した。道路にはポツンポツンと街灯があるだけで、とても暗い。でも方向は間違ってないはず。
1分もしないうちに、バン!と音がした。振り返ると、彼が車に乗っている。ドアを閉めた音だったんだ。
車は走り出し、私の方に向かってくる。
止まって引き留めてもダメだ。乗らない!
でも…… 暗いしな……
きっと、乗れって言ってくれるよ……
車は、スピードを落すことなく走り去った。
馬鹿だな、私……
夜道に1人取り残され、公衆電話を探して歩くしかなかった。
怖かった。暗くてとても怖かった。
ボックス前で、震えながら待っていた私の、目の前に止まったタクシーから、女性の運転手さんが声をかけてくれた……
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