PROLOGUE

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 僕という人間には何も無かった。しかし、ある事件に僕の凡人としての生は奪われてしまう。そして、僕を孤独から救ってくれた人は、共に世界を変えよう、と笑いかけてくれた。  その時から、僕の生き方はもう決まっていた。従おう。ずっと、ずっと。これからも、ずっと。義父さんの、偉大な目的のために。  今回も僕の役割は【裏切者】だ。  質素なカーテンを閉め、光に惑わされる騒々しい街と自身を隔絶する。僕は決して、惑わない。壁際にぽつりと置かれた鏡が僕の頼りにならない体を映し出す。黒いダッフルコートに紺のジーンズ。冬場の一般人の服装としては何の問題もないだろう。だが、踏み折られた枝に似た細い腕はおよそ常人のものではない。
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