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第1話 同級生からの抗議
机に顔を伏せて寝ていると誰かが隣に立つ気配がした。
「石野さん。ちょっと話があるんだけど」
顔を上げると、ショートボブの気の強そうな顔をした女子が立っていた。
同じクラスの白石恵美だ。彼女の後ろには女子が二人立っている。
白石はクラスの女子のリーダーで金魚のフンのようについて歩く取り巻きもいる。
「なにっ!!」
昼休みの貴重な睡眠時間を邪魔されてわたしは不機嫌になった。
「私と和也が付き合っていることを知っているでしょう。それなのにどうして、和也にちょっかいを出すのよ」
白石の言っていることが、わたしには分からなかった。人のカレシにちょっかいなんか出した覚えはない。
だいたい、白石のカレシが誰か知らないし、興味もない。
「なにを言っているか分からないわ。誰のこと?」
「とぼける気? B組の山田和也よ。一緒に喫茶店に行って、お茶したでしょう?」
ようやく白石が何を言っているのか分かった。
「ああ。あれは山田君が奢ってくれるって言ったから、ついて行っただけよ」
土曜日に校門に出たところで声をかけられた。何度か見たことのある隣のクラスの男子だったし、彼に聞きたいことがあったので、ちょうどいいと思ってついて行っただけだ。
「お茶だけじゃないでしょう。和也とキスをしたでしょう」
白石さんは目を吊り上げて怒っている。
「見たんだから。山田君と石野さんがキスしているところを」
ツインテールをした金魚のフン1が横から口を挟んだ。
見られていたのか。
全く余計なことを言って。こいつは白石のスパイか。
軽く北川を一睨みすると、彼女は身を縮めて白石の後ろに隠れた。
「奢ってもらったからお礼をしなくちゃと思って、何がいいって聞いたら、キスって言ったからしてあげただけよ。挨拶みたいなものよ。気にすることないわ」
本当にキスをしたわけではない。頬と頬をくっつけただけだ。もっとも見る角度によっては、キスをしているように見えたかもしれない。
だが、いちいちそのことを説明するのも煩わしい。
「はあー、キスが挨拶ですって。あなた、何人よ? そんな言い訳が通用すると思ってるの!!」
白石さんが険しい顔で睨んでくる。本当のことを言っているんだから仕方ない。
まだ眠たいのにこれ以上言い訳するのもいやになってきた。
「ああ、ウザい。そんなに大事なら他の女にちょっかい出さないように首に鎖でもつけて縛り付けていたら。それにあの男がそんなにぎゃあぎゃあ騒ぐほどの男?」
見ようによってはジャニーズ系に見えないこともないが、ナヨナヨしたにやけた男だ。
「自分が誘っといてよくそんなこと言えるわね」
白石さんが顔を真っ赤にして吠えるように喚いた。
「はあー、わたしが誘った? 誰がそんなことを言ったの?」
わたしから男子を誘うということは、今まで一度もない。
ちょっと聞きたいことがあると言ったら、向こうから静かなところで話をしようと言ってくるからついていっだけだ。
わたしは別に立ち話をしてもよかったのだが。
「カレよ」
「ホント、つまんない男ね。カノジョが怖いから嘘をつくなんて」
白石は気が強い。山田君も彼女が怒ったら恐いと言っていた。だから、怒られないように嘘をついたのだろう。
「カレは嘘つかないわ」
白石がヒステリックな声をあげた。
「どっちにしても、カレシがわたしについてくるのはあなたに魅力がないからでしょう。あなたに魅力があるなら他の女についていかないわよ。人に文句言う前に自分の魅力のなさをなんとかしなさいよ」
わたしは目を細めて白石を睨みつける。
「なんですって」
白石が今にも掴みかかってきそうな勢いで一歩近づいてきた。
「もうやめなよ。こんな子にいくら言っても無駄だよ。どうせ顔だけの子なんだから。もう行こう」
後ろに立っていたポニーテールの金魚のフン2が白石を慌てて押しとどめた。
「そうよ。相手にしちゃダメよ。行きましょう。顔だけで頭は空っぽなんだから相手にしても仕方ないわよ」
北川さんも追従するように言う。2人に促された白石さんはすごい目つきでわたしを睨みつけて教室を出て行く。
「バアーカ」
まったくつまらないことで睡眠の邪魔をされたので、ますます不機嫌になった。
昼寝の続きをしよう。
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