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今までの非ではない騒ぎになったのは、その翌日のことだった。
またしても魔女が出た。それはもう毎日の慣れたくもない恒例行事だったが、今回はその犯行内容が洒落にならないものだったのである。否、階段から突き落とされた生徒が出た時点で、自分達はもっと危機感を持つべきだったのかもしれないが。
今回被害にあったのは、クラスの“鈴木累奈”と“安城海羽”だった。彼女達は朝、トイレの個室に閉じ込められた状態で発見された。なんとその互いの両手を釘で打ちつけられ、ぴったりと固定された状態で。累奈の右手と、海羽の左手。累奈の左手と海羽の右手が、便座の上に重ねた状態で釘で打ちつけられていたのである。彼女達はその状態でどうやら一晩中放置されていたらしい。激痛と恐怖に加え、身動きができなかったために、トイレの中は二人が漏らした糞尿でかなり酷いことになっていたそうだ。
トイレの個室に鍵はかかっていなかったが、代わりにモップでつっかえ棒をして開かないようになっていた。翌朝トイレを使おうとした女子生徒が、モップで封じられた挙句異様な匂いがする室内に気づき、慌てて先生を呼んで発見されたということらしい。
個室の壁に、テープで貼りつけられていたのは魔女からのメッセージ。
『大工のお仕事は好きですか。
魔女』
女の子の手に釘を打って縫い付けるような真似を、大工の仕事と言ってしまうのは倫理観が狂っているとしか言えない。
さすがの状況に、今回ばかりは警察が呼ばれた。しかし、交番の警察官はすぐに困惑することになるのである。何故なら病院に担ぎ込まれた少女二人が、揃って同じ証言をしたからだ。
『自分でやりました!自分達でやりました!被害届は出しません、お願いします、事件にしないで』
『私達でやったの、私達で釘をさしたの。友達だからずっと一緒にいられるようにってやったの。お願い、自分達でやっただけだから、余計なことしないでください、騒ぎにしないでください、お願いします、お願いします』
激痛と恐怖に泣き叫びながらも、何故か二人して同じことを繰り返すばかり。魔女のメッセージがあるにもかかわらず。どうあがいても、二人だけで自作自演ができる状況ではないにも関わらず。
「いい加減にしろよ魔女……!」
昼休みの時間。机を叩いて、楓助は憤慨した。今までのいじめ、嫌がらせも十分酷かったが、今回のは完全に度を超えている。傷害罪どころか、一歩間違えれば殺人未遂だ。もし発見がもう少し遅れていたら、彼女達は脱水症状や出血性ショックで死んでいたかもしれないのだから。
「何でこんな酷いことができるんだ!流石に俺はキレたぞ!」
「鈴木さんたちと特に仲良しだったわけでもないのに、そこまで怒れるあんたはすごいと思うけどさ」
今回のことは、勝気な小鳥もさすがに血の気が引いたらしい。やや青ざめた顔で、腕をさする彼女である。
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