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「だから、正直に教えてくれ。魔女は、日暮さんなのか?」
楓助の言葉に。彼女は笑顔を消して、じっとこちらを見た。額にやや皺が寄っているのは、彼女なりに真剣に何かを考えてくれているから、なのだろうか。
彼女が魔女であってほしくない。
それでももし本当の魔女であるなら、その行動の理由を知りたい。いつまでも、クラスが見えない敵に脅かされて、誰かが傷つき続けるなんてまっぴらごめんなのだから。
「……私はね」
やがて、冴子は口を開いた。
「君は、正義のヒーローか、名探偵になってくれるかなって期待してたの。覚えてる?大きな段ボールを抱えて、君が階段から落ちそうになったのを私が助けた日のこと」
「え?ああ、忘れるわけない」
「あれさ、本来は君の荷物じゃなかったでしょ。本当は美作君が頼まれていたのを、代わりに運んであげたんだって聴いたよ。優しいのね。ちょっと感激しちゃった。この子は正義漢なんだなって確信した」
意外だった。まさか、冴子にその話を武実がしていたとは。特に仲が良さそうにも見えなかったのに、班活動か何かで機会があったのだろうか。
「今回の魔女事件も、君なら解決してくれるんじゃないかなって思ってた。確かに、物的証拠を集めるのって、警察でもなんでもない一般人には難しいけど……状況証拠から、なんとなく導き出せることっていろいろあるわけ。だから、せめてそれくらい集めてくれるかなって思ってたんだけど……ここまでお人よしだったなんて。普通の犯人なら、そこで罪悪感に負けて“私がやりました”なんて言わないよ?いくらなんでも、人を信じすぎ」
身も蓋もないが、まったくその通りなのでぐうの音も出ない。すみません、と思わず楓助は呻いた。
「ひょっとして、日暮さんはなんか予想できてたりすんの?魔女の犯人が、誰なのかとか」
楓助の問いに、まあね、と冴子は肩を竦めた。
「だって、ちょっと考えればおかしなことなんかいくらでもあるじゃない。……ねえ、佐倉君。おかしいとは思わなかった?どうして、誰も犯人の犯行現場を目撃できないのか。警察の介入が遅すぎるのか。クラスの殆どが魔女の被害者になって、ターゲットが固定でないのか。それから……そもそも“誰も使わないような四階のトイレで”なんで錦さんが私を目撃したのか。私がそこを使ってたのも怪しいでしょうけど、そもそも錦さんがわざわざ四階のトイレに行ったのもおかしいとは思わなかったの?」
「え」
「私達の教室は二階。彼女はバレーボール部で体育館は一階の別棟。本来なら使う理由なんかないのにね。……何か別の、用事でもない限り」
あのね、と。彼女はにやり、と嗤ってみせる。じゃり、と足元の砂が小さく音を立てた。彼女が一歩前に踏み出した音と、思わず楓助が一歩後ろに下がった音だ。
「教えてあげる。君が思うよりずっと、人間は救いようがないってこと。……裏の顔は、誰だって持ちうるものなのよ。私も、君が信頼してたであろう、彼女もね」
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