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「味方を増やすのは、一週間くらいあれば私には十分。前の学校でもそうだったんだもの、この顔ってなかなか便利みたい。ねえ、教えてあげましょうか。私がゲームをすると言った時、一番最初に乗ってきたのは誰だと思う?君の幼馴染の、美作武実君なのよ」
え、と思って思わず首を傾けた。手術台のような台座の上に縛りつけられているものの、首だけはまだ辛うじて動く。視界の端、冷たい目でこちらを見る武実の姿があった。
なんで、と思う。
確かに、ちょっとしたゲームだと言われたら罪悪感は薄れるだろう。でもこれは、今やっているこれはどう見てもいじめの域を超えている。なのに彼は何故自分を助けないどころか、積極的に加担しているのか。ずっと、友達だと信じてきたのに。
「あの子にも裏の顔があったの。可哀想にね、佐倉君。君は善意で、いじめられている美作君を助けてきたつもりだったのに、美作君はそれがずっと苦痛だったなんて。何もかも自分より優れていて強い君に、ずっと見下されているとしか思えなかったんですって。いつもマウントを取るために自分を守っているに決まっているって、そう思ってたんですって」
そんな、と。楓助は呆然とするしかなかった。確かに、自分にはちょっと強引なところがある、というのは己でも自覚していたことである。彼を助けるため、という名目でやや命令じみたことを言ったこともあったかもしれない。そうやって武実を守ることに、誇りを感じていたのも事実だ。
でも、それはあくまで武実を助けたかったからこそ。本当の友達だから、自分が強いから守らなければと思っていただけだというのに。
まさか、友達だと思っていたのは自分だけだったというのか。
「錦さんもそう。ずっと君が好きだ、好きだってアピールしているのにちっとも女の子として見てくれない。そのガサツな君の態度に傷つきつづけてきて、愛しさ余って憎さ百倍っていうの?いつか仕返ししてやりたいって気持ちをずーっと溜め込んでいたんですって。もう、駄目よ?女の子の繊細な気持ちは、理解してあげなきゃ」
「んんんんっ」
「君は強い人間だったと思う。誰かを助けるために、なりふり構わず突撃できるのは凄いわ。とても勇敢で、かっこいい、まさにヒーロー。しかもイケメンで、バスケットボールクラブでもエース級だっていうじゃない。……もう少し、自分が周りにどう思われているか、気づいた方が良かったかも。そういう人間は嫉妬されるし憎まれる。君がけして、悪人でなかったとしてもね。……だって自分よりいつも上にいて、いつも幸せそうな人間って……憎たらしいって思っちゃうもの、でしょ?」
「んんんんんん―っ!」
ああ、こんな結末、あんまりではないか。
このクラスには魔女がいる。その魔女が、一人どころかクラスの、自分以外の全員だったなんてどうして予想がつくだろう。
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