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恐らく最初は、ちょっとした器物破損程度。じわじわとエスカレートさせていくことで、みんなにスリルと、罪悪感の欠如を与えていったのだ。魔女のリーダーたる彼女のゲームコントロールはあまりにも見事だった。そして、それにどうしても賛同できなくなった者達は脅して口を封じたのだろう。あの階段から転落した男子も、凄惨な監禁を受けた女子二人も。
ストレスを発散でき、これはいじめではなくゲームであるというアメ。
裏切ったら制裁が待っているというムチ。
そして既に、自分もみんなも共犯であるという意識が、彼等に歪んだ結束感を与える。このクラスは、クラスまるごと魔女だった。ああ、こんな悪夢みたいなことが現実にあっていいのだろうか。
「楓助、ごめんね、これはゲームだから。ゲームオーバーになったら、罰ゲームをするのは普通のことだから」
いつもとさほど変わらない口調で言う武実。
「うん、罰ゲームはしないと。ちょっとくらい痛い思いをしたらさ、あんたも反省するでしょ?」
レクリエーションでもするかのように、嗤いながら告げる小鳥。
「ごめんなさいね、佐倉君。これはみんなの意思だから。みんなの意思は尊重しないと、ね?」
どこか熱に浮かれたような声の篠田先生。そして、冴子は。
「綺麗に縛れたし、じゃあ始めよっか」
四十三人の仲間をバックに、銀色のナイフを取り出して語る。魔女の使徒たちに、これはけして間違ったことではないと洗脳を重ねるように。
「絶対に殺さないようにしてあげてね、痛くないと罰にならないんだから。両手の指と舌と目を全部傷つければ、多分証言能力もなくなるだろうし、みんなでちょっとずつやろう?それできっと、佐倉君も今まで悪かったこと反省してくれるから!」
「そうね」
「そうだよね」
「そうしよう」
「さんせー!」
救いはない。自分の味方はどこにもいない。真っ暗になっていく視界で、楓助は己が一体どこで間違えたかを考えた。考えても考えても、その答えに辿りつくことはできなかったけれど。
――お前に、魔女なんて可愛い称号似合わねえよ。
誰だったか。本当の悪魔は地獄ではなく地上にいると言ったのは。
彼女に相応しい称号は、むしろそちらの方だろう。
――ああ、人間なんて、信じるもんじゃない。
心臓の奥に黒いものがたまっていくのを感じながら、楓助は――舌を噛み切る方法を、考え始めていたのだった。
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