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彼女が動くたびに、ポニーテールがしっぽのように揺れる。明るく元気、を地で行くタイプの女の子だった。
「四月にはもう、うちのクラスに出現してたでしょ。で、毎日誰かしらに酷いことしたり、教室汚したりするじゃない?魔女って名乗るくらいだから、女なのかな」
「って思わせるのがあっちの目的かもしんねーぜ。男が魔女だなんて名乗るわけないっつー。まあ、どっちにしても女子二十一人、男子二十三人ってクラスじゃ、容疑者多すぎるわけだけど」
「あーうん……だよねえ」
このクラスは、先生を抜いても生徒だけで四十四人もいるのだ(小さな町だが、学区が広いこともあって子どもの数だけはちょっと多いのである。まあ、クラスの数は四つしかないわけだが)。
その中の誰が犯人か、を突き止めるのは至難の業だろう。
「いじめはいじめなんだろうけど、方向性がまったくわかんないというか、何考えてるのかわかんないっていうか。名前も名乗らず、特定の一人を標的にするわけでもなく」
小鳥の言葉に、ちらりとこちらを振り向く武実。
「……そうだね。僕一人がいじめられてるなら、また根暗な奴って思われてるだけなんだろうなって思うけど」
「もー。美作君はすぐそういうこと言うー。自己評価低すぎ。仮に本当に美作君が気に入らない人がいたとしても、だからってこんないじめしていい理由になんかならないんだからね?つか、教科書水浸しにするってもう完全に器物損壊だから。犯罪だから」
「まったくだ。お前もたまにはいいこと言うな小鳥」
「たまにはってひどくない!?」
そう。やられていることはいじめ、であるはずなのだが。その割に、犯人の行動は奇妙としか言いようがないのだ。どちらかというと、特定の生徒ではなく“クラス全体をいじめたい”みたいな雰囲気なのである。
魔女、を名乗る人物から最初に予告があったのは、四月にクラスが始まってすぐのこと。
ある日、黒板にこのようなメッセージが貼り出されていたのである。
『私は魔女です。
私は退屈が嫌いなので、このクラスで皆さんと一緒に遊びたいと思います。
これからほぼ毎日、皆さんと一緒にやりたいことを提示していきます。皆さんは、私の魔法を拒むことができません。
私とのゲームを終わらせる方法はただ一つ。
私の正体を突き止めることができれば勝ち。
できなければ負け。罰を受けてもらいます。
さあ、私を見つけてください。
私はこのクラスの中にいます。
魔女』
最初は誰も、そんなメッセージを深刻に受け取らなかった。それどころか、なんか面白いことを始めた奴がいるな、と笑いながら見ていたほどである。みんながスマホを取り出して、面白がってメッセージが印刷された紙を撮影していた。ホームルームの時間になって先生が呆れて怒り出すほどに、みんなが熱狂していたのは事実である。
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