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フードのヤツを引き連れて駅前まで戻ってきた。
ヤツの右手に握られていた黒いスプレー塗料は没収した。こちらが何を言っても、ウンでもスンでもない。ムカつくほど押し黙ったままだが、こっちの言うとおり大人しく連行されている。
ホントに、何だコイツ。
駅前交番に突き出す前に、何か言い分は無いのか聞いたのに、この調子でずっと無言なんだもんな。
幾分か人がまばらになってきた改札前を横切って行くと、交番の手前のコンビニから見知った人が出てくるのが目に入った。
「あ、樹さん!」
思わず声に出すと、向こうもこちらに気付いた。
「あれ? 長谷部君、こんな時間に?」
自転車の前かごにレジ袋を入れた樹さんは、オレの隣で俯いているフードのヤツに目を向けて怪訝な顔をした。オレは、フードのヤツのコートの裾をつかんで樹さんのところまで行った。
樹さんの自転車はいつものロードバイクじゃなくて、神社の木札を括り付けたママチャリだった。
いつもなら社務所の倉庫に置いてある自転車。
「樹さん、これ……」
「ああ、買い物をたのまれて」
「神社の人たち、今、あそこに居るんですか?」
「えっ?」
樹さんは、一瞬、何かに躊躇った。
「あ……ああ、まぁ……」
「コイツ、昨日の夜、神社から逃げてきたヤツなんです。それで、これ……」
オレはポケットから没収したスプレー塗料を取り出した。
「また落書きしようとしてて、オレ、現行犯逮捕したんです!」
樹さんは黒いスプレー塗料を見て目を見開いた。
「キミが?」
フードのヤツに、樹さんが話しかけた。
やっぱり、ウンでもスンでもなく黙りこくっている。
「じゃぁ、……石も、今、持ってる?」
樹さんは更にフードのヤツに話しかけた。
石? 何のことだろう。
フードの奴はコクリと頷いた。それを見た樹さんは、浅く溜息をつく。
「で、長谷部君これからどうするの? 交番?」
「えっ……、まぁ、そのつもりだったんですけど……」
「そうか」
樹さんは、ふむ、と腕を組むと目を閉じて考え込んだ。
しばしの間を置いて、樹さんは口を開いた。
「長谷部君、交番へ行く前に、この子と一緒に神社に来てもらっていいかな」
「え? 神社に?」
オレは、目をパチクリさせて樹さんとフードのヤツを交互に見た。
「まず、返してもらうべきものを返してもらおう」
樹さんは、フードのヤツにまっすぐ視線を向けた。
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