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長谷部君が連れてきた子は、背格好からして大体彼と同年代くらいだろうか。始終フードを目深に被っていて人相はよく解らない。手袋をしている手の感じから細い子なんだな、という印象を受けた。暴れるでも逃げるでもなく、大人しくついてくる様子は、諦めや投げ遣りな気持ちではなく、何故か安堵が感じられた。
三人とも黙したまま神社への道をたどる。山の麓に着いてから、長谷部君に「こっちは社務所に回るから、先に上社に上がっておくように」といい置いて別れた。
二人の姿が見えなくなってから、諏訪さんの携帯に電話する。
「長谷部君が猿石を持っていった子を捕まえたようで、今からそっちに行きます。今、神社の石段の下に来たところ」
と言うと、諏訪さんはいささか驚いた様子で応じた。それはそうだろう。オレもこのスピード展開にはびっくりだ。
にしても、なんだろう……。
捕まって、ホッとしたみたいなあの雰囲気は……。
オレがコンビニのレジ袋を提げて上社に着いた時には、フードの子は猿石を元どおり上社の祭壇に返したところらしかった。
社の内に居るフミさんにレジ袋を手渡す。神社の人たちに取り囲まれたフードの子は、なんでまたこんなことを? と訊かれているところだった。
両手をコートのポケットに突っ込んで猫背でうつむいていた子は、初めて口を開いた。
「もう……返すもん返したんだからさ、交番でもなんでも連れてってよ」
投げ遣りな呟きに、諏訪さんたちは顔を見合わせた。
「それでは、答えになっておらんなぁ」
鹿島さんが頭をかいてぼやく。長谷部君はフードの子と並んで、体格の良い鹿島さん香取さんを見上げて落ち着かなげにキョロキョロしていた。
「理由を聞いたら何だっていうの? やったことには変わりないでしょ?」
フードの子は顔を上げた。ショートカットの女の子だ。
オレはちょっとびっくりして目を瞬いた。
背にした社の方から、フミさんの「おえぇーまずいぃー」と文句を言う声がする。大神さんが何か言ってなだめていた。
「わしらは、この神社の管理をしているものだ。わしは諏訪というのだが、嬢ちゃんはどこの子なんじゃ?」
諏訪さんが穏やかに訊くと、女の子の口元がぐっと力んだ。
「佐伯千尋。……中三」
「年明けの受験生なんて大事な時じゃないか。なんでこんな夜更けに落書きなんて……」
香取さんが言いかけた言葉に、女の子は被せ気味に叫んだ。
「理由? 聞きたきゃ教えたげるわよ! こんなド田舎なんて来たくなかった!」
長谷部君を含め、その場に居た者みんなの目が点になった。
意味を理解しようと固まってしまった隙に、女の子は身をひるがえして下社へ下りていく山道へ飛び込んでいった。
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