苦い グラフティ

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「あ!」  慌てて後を追っていこうとしたら、諏訪さんが呼び止めた。 「追わんでいいぞ」 「えっ?」  振り返ると、社の扉の内から大神さんが顔を出しているのが目に入った。 「どうせすんなり逃げられはしないよ。あの子、ちゃんと山神に謝っていないからね」  何かを企んでいるような、悪戯っぽい笑みを浮かべている。  逃げられない?  山神?  どういうことなんだろう。 「フミさん、大丈夫?」  大神さんが開けた社の扉の隙間から、樹さんが中に入っていった。    フミさん、中にいたんだ?   何してたんだろう……。  樹さんに連れられて社の中から出てきたフミさんは、ファンタのペットボトルを抱えてゲッソリした顔をしている。 「あれ? フミさん……」  目が合ったフミさんはバツが悪そうに樹さんの陰に隠れた。 「あの子が書いた落書きを消してたんだよ」  代わりに樹さんが答えた。  ちょっと不機嫌に口を尖らせて、女の子の駆けて行った先を見据えている。  ヒドイ……。  あの子、社の中に落書きしてたんだ。  なんて罰当たりなことを……。 「フミさんには気の毒な事じゃった。この埋め合わせはいつか必ずするからのう」  諏訪さんがフミさんに、拝むように手を上げてわびていた。 「じゃ、解散だな」  鹿島さんがヤレヤレと言った調子で下社へいく道へ歩き出した。香取さんも大きく伸びながら欠伸をした。じゃぁ、おやすみーと言いながら鹿島さんの後に続く。 「もう遅い。長谷部君もいい加減帰るとよい」  諏訪さんが言った。 「えっ? でも、……さっきの子」  どうなっちゃうんだろう。  他人事ながら不安になって諏訪さん、大神さん、樹さんたちに目顔で聞いた。 「長谷部君の心配することではないよ」  大神さんは肩をすくめた。 
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