苦い グラフティ

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 樹兄ちゃんが夕飯を食べているそばで、ぼくとさとるが事件の説明をした。さとるの携帯ゲーム機のカメラモードで撮った写真を見せる。 「これが、今朝、さとるのおじいちゃんたちが見つけたタコ公園の落書き。それで、こっちは、学校のプールの外壁に書いてあった落書き」  樹兄ちゃんは、ご飯をモグモグしながら頷いている。今夜の夕飯は、豚キムチだった。給食にも出てくる、ぼくたちに人気のオカズだって言ったら、フミさんが作ってくれたんだ。  落書きはどれも黒いスプレーでトゲトゲした字が書いてある。多分、英語だと思うのは、ところどころ「A」や「C」っぽい文字に見えるから。それくらいは、ぼくらだって解る。 「ふうん」  一旦飲み下してから、樹兄ちゃんは左手で画像を拡大した。 「今朝見たのと似てるなぁ……」 「兄ちゃん、どこで見たの?」  さとるが前のめりで言った。 「駅の近くの……踏切の制御盤の扉。写真、撮っておけばよかったな」 「えっ? 駅の方にもあったんだ」  眉間に皺を寄せていたさとるが、更に口を尖らせた。フミさんがさりげなく携帯ゲーム機を取りあげて、画面をサラリと撫でた。 「それ、タギングっていうやつだと思う」  樹兄ちゃんの声に、ぼくは視線を戻した。 「会社の同僚に訊けば、何て書いてあるのか解ると思うんだけど……」 「……チヒロ サンジョウ………。タコ公園のは、そう書いてありますね」  フミさんはそう言うと、ゲーム機をテーブルに戻して、パタパタと台所に引っ込んでいった。  その時、玄関のチャイムが鳴った。ぼくとさとるは顔を見合わせた。 「あ……、お母さん方かな」  樹兄ちゃんが箸を置いて立ち上がった。  フミさんは台所で冷蔵庫を開け閉めしている。なんだか忙しそうで気になったけど、母ちゃん達が来てるんならぼくたち帰る準備をしなくちゃいけない。   玄関先で、樹兄ちゃんが母ちゃんたちと話している気配を察して、ぼくらは携帯ゲームを仕舞い、洗濯物と宿題が入ったリュックを背負った。  そのうち、ちょっと怒ったみたいな顔をしたフミさんが台所から出てきて、ぼくはビックリしてさとるを見た。さとるも、どうしたらいいのか解らないって顔をしてる。リビングに戻ってきた樹兄ちゃんは、そんなぼくらとフミさんを見て、目をパチパチした。 「どうした?」 「いや……なんでもないです」  フミさんはそう言って、なんか無理矢理みたいに笑った。  
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