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翌朝、いつも通りの自転車通勤で小学校の角を曲がった時、神社に続く階段の下に立っている人影に気が付いた。
あの、白髪頭は……諏訪さんだ。
思わずスピードを緩めると、諏訪さんもこちらに気が付いて大きく手を振った。なんだろう?
「おはようございます」
諏訪さんの前に自転車を停めると、諏訪さんは挨拶もそこそこに切り出した。
「大変だ。ヤマガミがおらんようになった」
「ヤマガミ?」
誰だ? 初めて聞く名前だ。
「今朝方、大神がやってきての……」
そういわれて、やっと合点がいった。
山神!
天祖さまと合祀してある山の神のことを言っているんだ。
えっ? でも、そんなこと、今オレに言われても、これから出勤だし……。
「あー、と、わかりました。フミさんにすぐ神社に行くように連絡しときます。オレ、これから仕事なんで」
「おお! そうじゃった。すまんかった」
諏訪さんは恐縮して、では頼むぞ、と頭を下げた。
オレは階段の先を見上げた。非常に気になるところではあるが、今は仕方がない。とりあえずフミさんに頼んで報告を待つとしよう。
オレの後ろを登校班の子たちが通っていった。
「諏訪さん、おはようございまーす」
聞き覚えのある声に振り向くと、さとる君だった。
「樹兄ちゃん、どうしたの?」
「あ、いや……その、おはよう」
予想外の展開に挙動不審に返すと、さとる君は、立ち止まって、オレと諏訪さんの顔を見比べた。
「……やっぱ、事件? なんかあったの?」
「えっ?」
オレと諏訪さんは顔を見合わせた。
おーい! さとる! よそ見すんな! 先頭の班長に注意されて、さとる君は首をすくめた。
「放課後ー! まことと一緒に神社行くから!」
さとる君はそう言うと、自分の登校班のところまで走って行き、列に潜り込んだ。
やっぱり、昨夜、何かがあったらしい。
はっと気が付いてオレは腕時計を確認した。
「やべ、電車一本乗り過ごした」
諏訪さんにぺこりと会釈をすると、オレは慌てて自転車をこぎ出した。
昼休み、スマホをチェックするとフミさんから画像付きでメールが来ていた。今朝、電車内から送ったメールを見たフミさんが、デジカメで撮影した画像を送ってくれたのだ。
上社の猿石が行方不明
社に落書き!
という短いメッセージと共に送られてきた画像をみて、オレは顔を顰めた。あの、黒いスプレーのタギングだ。そして、その文字はオレでも容易に読み取れた。
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