苦い グラフティ

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「やっぱ、凌空(りく)兄ちゃんが追いかけてたのは犯人だったんだな」 「神社にイタズラするなんて、きっとバチがあたるよ」  さとるとぼくは学校からの帰り道、まっすぐ神社へ向かった。今日は木曜日で母ちゃんの仕事が休みだから、学童が無くて良かった。  石段を上がっていくと、シンと静まり返った境内に出た。あれ? 神社の人たち、今日はどこに行ったんだろう?  さとると並んで葉っぱの無くなった木の群れを見上げていると、おい、と声がした。声のした方に向くと、狐塚さんだった。ぼくらは狐塚さんを取り囲んだ。 「今朝、諏訪さんと樹兄ちゃんが真面目な顔で話してるの見たんだ。なんか、あったんでしょ?」 「ぼくたちね、昨日の夜、怪しい人を見たんだよ! 凌空兄ちゃんが追いかけてたんだけど、足が速くて逃げられちゃったんだ!」 「そっか……」  狐塚さんはなんだか元気がない。 「実はな、上社(かみやしろ)に祀ってあった山の神様の石が無くなっちゃってるんだ」  ぼくはさとると顔を見合わせた。  それって、神様が盗まれたってこと?  「大変だ。神様、誰かが持って行っちゃったの?」 「うーん。午前中いっぱい、フミさんも来てくれて皆で周辺を探したんだけどなぁ、見つからないんだ」 「泥棒だよね! 警察には?」 「まぁ……、それがなぁ」  狐塚さんは渋い顔をした。 「ここは古くてあまり繁盛してない神社だからなぁ、防犯カメラも何も無くて手掛かりゼロなんだ。精々、社の扉に鍵をかけておくしか策がない」 「そんな……」  ぼくとさとるは、後の言葉が続かなかった。  ぼくらにとっては大事な場所なのに。
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