苦い グラフティ

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 年も明けて、ようやくと世間も正月気分が抜けてきた。  キンとする朝の寒さは嫌いではない。冷たい風を切って自転車で行く毎朝の通勤経路。元気よく挨拶をしてくる登校班の子どもたちに片手を上げて挨拶すると、小学校の角を曲がって神社の前を通りぬける。神社も初詣の賑わいが去って、いつもの静寂を取り戻しているようだった。  駅前の契約駐輪場は踏切を渡った向こう側だ。通勤時間帯でひっきりなしに通る電車に合わせて踏切も忙しなく上下する。オレはいつもここで足止めを食うので、余裕をもって家を出ている。  案の定警鐘を鳴らして下りている遮断機の前で、他の通勤通学客と一緒に大人しく待つ。ふと、何の気なしに踏切脇の制御盤に目が留まった。  薄い青の扉に、黒いエアブラシで書きなぐった落書き。  筆記体のような、サインのような……ただの記号のようでもある。  要は、文字として読めない。    あれ? こんなの、あったっけ?    白い息を吐きながら首を傾げる。遮断機が上がった。  車が、人が動き出す。オレも、自転車を押して踏切を渡り始めた。    昔から、1月から3月までの時間の流れの速さについては「()ぬ去る逃げる」と言われる。多分それは冬休みと春休みに挟まれているからだと思っていたが、社会人になってもその感覚は変わらない。  結局、なんでなんだろうな。    ニューイヤーグリーティングの時期が終わったと思うまもなく、卒業入学、出会いと別れ、新たな門出を彩る商戦で市場は一色だ。まだもう一段と冷え込むであろう時期をひかえているというのに、周囲は桜色に溢れている。  そういえば、今年は神社の人たちと花見をしようと誘われていた。  気の早い話だな。  フミさんから、神社の人たちは神様だと聞いて驚いてしまったが、普通に接している分には気のいい人たちだ。普段、どうしているのかはサッパリ解らないけれど。  自転車を所定の場所に停める。  白い息を吐いて周囲を見回した。  皆、無表情にそそくさと駅に向かっている。  オレも、そろそろ仕事モードにスイッチを切り替えるか。コートのポケットに自転車の鍵をねじ込んで、肩で一息ついて駅へ歩き出した。
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