秘密兵器イカリング

3/11
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 バイトも終わり隆幸が夜道を自転車で疾走していると道端で(うずくま)っている女性の姿が見えた。少し通り過ぎてしまったが、迷いながら自転車を停止させる。  暗闇ではっきりとは見えないが、格好からするに恐らく70代、80代くらいだろうか。綺麗な白髪のショートカットが印象的だ。  体調不要だろうか。見てしまった以上、やはり放っておくわけにはいかない。引き返して女性に声をかけた。 「あのー、大丈夫ですか?」 「おっ、やっと声をかけてくれる者が現れたか」  蹲っていた状態から体を起こして顔を上げた。隆幸の予想通り見た目は老婆であったが、声や喋り方はその外見に似合わずハキハキとしていた。 「世知辛い世の中だ。だーれも声をかけてくれん。苦しんでて今にも死にそうだったらどうしてくれるんだろ。化けて出てやろうか」  老婆はぶつぶつと文句を言っている。彼女の少しおかしい言動に、やはり声をかけずに無視して行ってしまえばよかったと隆幸は思った。 「元気そうなんで俺は行きますね、では」 「待てい! 声をかけてくれたお礼をしよう!」  早々にこの場から去ろうとした隆幸を激しく呼び止めた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!