58人が本棚に入れています
本棚に追加
プロローグ
暗い部屋に、荒々しい男の息遣いと肢体が跳ねる音が響く。唯一の光源である蝋燭が、男が情欲を女に注ぐ光景を露わに映し出す。
熱に浸された空間で、女の表情だけが異質であった。
組み敷かれた女は、この場に似つかわしくない程清らかな笑みを浮かべていたのだ。
「ああ、ああ、お赦しください!」
男が謝罪の言葉を紡ぎながら、腰を強く揺らめかせる。熱い杭で身体を貫かれながらも、女の笑みが揺らぐことはなかった。
「神の慈悲でもって、我が欲をお受け止め下さい、ああ……っ!」
男が感極まった表情で、何かを耐えるように身を震わせる。
汗で濡れた頬を、白魚のような指が優しくなでた。
「赦しましょう」
可憐な声が、男の鼓膜を甘く刺激する。
頬を撫でるさまは、母が子を抱くような温かさがあった。
長いまつ毛を伏せ、女は男の耳元で呟いた。
まるで甘言を囁く悪魔のように。
「神は全ての罪を受け入れてくださいます。さあ、どうぞ私の身体に、穢れをお移しになって?」
「巫女様……っ!」
声に導かれるように、男の腰の動きが再開する。汗でぬめった広い背中に手を這わせ、女はふと視線を横へとずらした。
燭台から数歩離れ、壁と同化するようにして。
男が一人、立っていた。
何をするでもなく、先程から眼前で繰り返される痴態をただぼうっと眺めている。その瞳に欲の炎は灯されておらず、いっそ暇で仕方がないと言わんばかりの態度だった。
つまらない男ね、と心中で毒づく。
男に呆れ混じりの感想を抱きながら、女は別の男に抱かれ続けていた。
最初のコメントを投稿しよう!