二話

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 幾度も清めを繰り返し、男がようやく巫女の身体から離れる。それが儀礼の終わりの合図だった。 「これで、貴方の穢れは巫女へと完全に移され、御身は浄化されました」  アザレアは、春風のような爽やかな笑みを浮かべ、終了を告げる。たった一枚の薄絹の衣装は幾重にも皺が刻まれ、最早服の機能を果たしていなかった。  女の艶やかな情事後の姿を目の当たりにしても、信者はただ素直に頷く。そうなるまで、たっぷり穢れを身体から注ぎ落したのだから。 「では巫女様、また穢れが溜まった時に……」 「ええ。いかなる時であろうと、神の慈悲なる指先は御身を祓いましょう」  大理石に座ったまま、アザレアは男の姿を見送った。今の巫女は穢れた身なのだから、部屋から出て見送るのは禁忌、とされている。巫女としても儀礼後は立つのが難しい事もあるから、その決まりには助かっていた。  扉が閉まり、外で蝋燭が抜かれる音がする。今頃男は、清められた身体で外に出るべく、晴れ晴れとした気持ちで階段へ向かっているのだろう。  さて、とアザレアは壁際で棒立ちしていた男へと視線を動かす。 「ずっと立っていて疲れたでしょう。こちらで座ったら?」 「別にいい」  そっけない返答に、儀礼後の疲労感がどっと押し寄せて来た。  あれだけ眼前で見ておきながら、この反応。  儀礼は滞りなく終えられたし、あれだけ間近で見物していたというのに、興奮したのは信者の男だけだったとは。  それとも無反応なのはふりで、本当は興奮を我慢しているのか。そうであって欲しいとアザレアが疲れた頭で期待していると、ジェゾはぼそりと呟いた。 「それでお前は、楽しいのか?」  辛いかとか苦しくはないかと、尋ねられることはある。幾度も無難な、或いは相手が望む答えを返してきた。  楽しいかどうか、なんて。  そんな、こと。 「遊びではないの。これは儀礼を神の代わりに行使させていただく、光栄な仕事なのだから」  一瞬言葉に詰まってから、さらりと返答を口にする。  それよりも、と目を細めて男を上目遣いに見上げた。 「貴方も男でしょう。まさか肉欲を感じたことがないの?」 「ない、とは、……言わんが」  やけに歯切れの悪い返答だった。まさか、とアザレアが重い身体に鞭打ち身体を動かそうとすれば、秘部から濁った液体が一筋流れた。卑猥な光景から、シェドは視線を素早く逸らす。  流石の彼も、昂るものがあったのだろうか。
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