二話

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 手ごたえを感じ、アザレアは弱々しく手を差し出した。届かぬ彼に縋るように指を伸ばし、ふわりと微笑む。身体を動かした拍子に、薄絹が新たな皺の模様を刻んだ。 「疲れてしまったわ。ねえ、貴方の手を貸して?」  差し出してくれるなら、こちらのもの。とびきり甘く指を絡ませるつもりだった。どんな微熱も、溶けてしまうような業火へと薪をくべるために。  シェドは何かを考え込むように、束の間項垂れた。そして自らの修道服に手をかけ、一気にローブのような長い上着を脱ぎ捨てる。  予想以上の効果に驚きつつも、アザレアは上着を脱ぎ捨てた彼を熱っぽく見つめ続けた。簡素なズボンと、白色のシャツが露になる。シャツの下は何も着ていないらしく、胸元から鎖骨のラインが顔を覗かせていた。 「さあ、来て……きゃっ!?」  うわずった声が、驚いたものに代わる。顔に布が体当たりしてきたためだ。丈の長い布地を有効活用すべく、修道服は艶やかな肢体を覆ってぐるぐると巻きついてしまった。 「何をするのよ!?」 「運ぶ」  シェドはぐるぐる巻きにした腰元を掴み、自らの肩に担ぎ上げてしまった。アザレアは抵抗しようとしたが、自分の身長よりも高くで抱えられては暴れるのも危なかった。 「じっとしていろ、落とすぞ」  女を丸太の如く担ぎ上げ、片手に燭台をひっつかむと、シェドはすたすた階段を上る。普段よりも不安定な体勢と高い視界に、アザレアは身を固くして口をつぐんだ。  シェドは足で扉を蹴り開け、侵入時と同じように扉を蹴って閉める。乱暴な扱いに、ドアがきしんで悲鳴をあげた。 「ついたぞ」  荷物を下ろすように、アザレアはベッドに落とされた。床でないだけマシというものだろう。  頬を引きつらせているのを見て、燭台を片手にシェドは首を傾げた。  何故彼女が怒っているのか、皆目見当がつかないとばかりに。 「手を貸せと言ったのはお前だろう」  その言葉を聞いて、アザレアはこめかみに指を当て、一度大きく長い息を吐く。一呼吸終えてからようやく、ここまで運んでくれた彼へと爽やかな笑顔を贈った。 「この愛想なしの興ざめ男」
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