三話

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 強情な男をどうやって説得したものかと考えていると、慌ただしい足音が二人の間に割り込んできた。 「アザレア!」  呼び声に、アザレアはぱっと笑顔を向ける。輝くような金髪と鮮やかな赤の瞳が印象的な、すらりとした顔立ちの貴族の男が近寄ってきた。男には、通りすがる者がはっと振り返り目で追うような華やかさがあった。ただ身なりや顔立ちと反して、その雰囲気は淡い陰りを帯びていた。 「コリオン、お久しぶりね。元気そうで安心したわ」  コリオン・モラクス。  以前何度も呼んだその名前を笑顔で口にして、アザレアは挨拶する。その言葉に彼は憂いを滲ませたまま、両手で滑らかな指を掴んだ。 「いいや、僕は君と別れてからずっと、心が晴れやしない。どんな日を過ごしても、君の姿を追い求めてしまう」  指からそっと逃れ、アザレアは微笑んだままお上手ね、と感想を述べた。  聞き慣れた誉め言葉だった。浮ついた眼差しも、その裏に宿る熱も。 「ずっと君だけに心を囚われているんだ。どうか僕に、君の全てを手に入れる権利を与えてくれ」 「ごめんなさい、巫女の心は神の御許にあります。貴方に全てを捧げる事はできないわ」  拒絶を与えられても、男は諦めるそぶりをみせなかった。  唇が更なる睦言を紡ぐ寸前、二人の間に長身が割り込む。 「こいつに近付くな」  散々無視されていたシェドが、淡々と告げる。そこでようやく気付いたとばかりに、コリオンは視線をアザレアからずらした。 「どいてもらえないか。折角の彼女との逢瀬なんだ」 「そういうわけにはいかない。俺はこいつの護衛だ」  紫の瞳で注意深く相手を見つめ、シェドはぶっきらぼうに宣言する。この男が新しい護衛の、とコリオンは呆然と呟いた。整った顔立ちが、素早く歪む。 「貴様も、彼女に儀礼をしてもらったと?」 「いや。儀礼なんてしなくてもいいだろう」 「何だと?」  アザレアが止める間もなく、シェドはさらっと正直に述べてしまった。案の定、驚きで目を見開いたコリオンがシェドへと詰め寄った。 「ふざけるな、巫女の護衛という重要な役目につきながら、穢れたまま傍で仕えるなど、神への冒涜だ!」 「……儀礼をしたと言った方が、満足だったのか?」  シェドの問いかけに、コリオンは一瞬狼狽える。どちらにせよでしょうねとアザレアは内心で呟いた。シェドが儀礼を行っていれば、きっと嫉妬心を露わにしただろうから。  無表情な男から視線を逸らし、コリオンは巫女の両肩をおもむろに掴んだ。  指から込められた力に眉を顰めそうになるのを我慢し、アザレアは困ったように笑った。 「コリオン、離してちょうだい」 「いいや、今からでも遅くはない。こんな男ではなく、父に頼んでもう一度僕を護衛にしてもらう。そうだ、君の傍に並ぶのは僕こそが」  続きはぶつりと途絶えた。カイが剣の鞘で彼を薙ぎ払ったのだ。
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