三話

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「巫女長、神殿の前で騒ぎがあったそうだな」  ドアの前で話していると、ゆったりとした足取りが近付いてくる。祭司は二人の前で足を止め、皺の刻まれた顔をシェドへ向けた。  まるで、咎めるように。 「以前の護衛と彼が、揉めたのだとか」 「ええ。神殿の前でお騒がせし、申し訳ありません」  シェドが口を挟む前に、アザレアは大人しく謝罪の言葉を述べた。頭を下げていても、検分するような視線が突き刺さっているのを感じ取る。 「少々、耳に入った事がある。巫女長とは、話をする必要があろうな」 「貴重なお時間を割いていただき、感謝いたします」  アザレアは眼差しを伏せ、自室を開ける。祭司を中へ促し、続けて入ろうとする護衛の身体を止めた。 「貴方はどこか別の場所で休んでいなさいな」 「だが俺は」 「控えよ」  シェドが食い下がろうとするのを、老いた声が止める。穏やかでありながらも、反対意見を一切聞き入れはしない声音であった。 「護衛の者がいつも傍に居ては、彼女も心が休まらぬだろう」  そう言うと祭司は部屋の主の代わりに扉を閉めて、鍵をかけた。さて、とローブのポケットに鍵をしまい、祭司は探るような目つきに変わった。 「あの護衛がまだ儀礼を行っていないのは、本当かね」  随分噂が広まるのが早いと、アザレアは内心ため息をついた。コリオンは随分大声で喚いていたし、こういう話を嬉々として広めたがる者にはいくらか心当たりがあった。正直に認め、しおらしげな顔を作ってみせる。 「申し訳ありません。私が至らぬばかりに、未だ禊ぎを終えてはいません。ですが護衛の任が解かれる頃には、彼もその身を清め終えている事でしょう」 「巫女長にしては珍しく、悠長なことだ。それとも、まさか儀礼の仕方を忘れたのではあるまいな?」 「いいえ」  意図を察したアザレアは美しく微笑み、祭司の肩に指をそっとあてる。ローブの皺をなぞるように、爪をするりと滑らせた。 「けれど、そう懸念されるのも当然でしょう。恐れ多くも祭司様のお身体を預かり、儀礼の鍛錬を積ませてもらってもよろしいでしょうか?」 「いいとも、アザレア。許そう」  男はゆっくりと頷き、微笑んだ。  瞳の奥に燻る、色欲を滲ませて。
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