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暗い部屋で、言い慣れた言葉をアザレアは紡ぐ。
「神は全ての罪を見つめ、裁かれます。罪を受け入れなさい。見つめなさい。そして、祓いなさい」
呟きながら、相手の様子を確かめる。警戒を感じ取り、部屋の隅にあるベッドまで連れて行くのは難しそうだと諦めた。
「自らの罪を受け入れ、見つめるのは容易い事ではないわ。更にその罪を祓うなど、人の身には過ぎた行為」
彼が逃げ出さぬよう扉の前に立ち、自らの衣服に手をかける。おい、と声がかかるのを無視して、アザレアは続けた。
「例えば肉欲。人の営みにも関わる、誰しも抱く切り離せない重罪。それを神の代行として穢れを預かり、祓うのが巫女の務めなの」
服の滑る音が、密やかに響く。今彼女の身体を辛うじて覆うのは、絹一枚の衣であった。辛うじて肌の細部を隠してはいるものの、華奢な身体のラインは隠し切れず、あれほど神秘性を湛えた姿からは艶やかさが滲みだしていた。
「風邪を引くぞ」
シェドの反応は、あまりに通常通りだった。頬を赤らめる位はしてもいいものを、無表情なままだ。
修道服はゆったりとしたローブの作りになっているから、彼が無反応のふりをして実際は興奮しているのかどうかも分からない。
薄布一枚のまま、アザレアはそっと距離を縮める。
「まだ分からないの? 私と交わり、穢れを移しなさい。それが貴方の一番大切な役目だと言っているのよ」
そこまで言ってようやく意図を察したらしく、シェドは照れるでもなく、狼狽するでもなく、ぐっと顔をしかめた。冷ややかな紫色の瞳で、アザレアを睨みつける。
「巫女というのは、娼婦か」
「あら、他の人には言ってはダメよ。貴方の家族や、紹介してくれたフランドール家の顔に泥を塗る台詞だから」
この国から出たことがないアザレアでも、世界中で同じような儀礼が行われているとは思っていない。けれどここにいる間は、その風習に従って貰わなくては困るのだ。
「シェド、これは護衛として必要な行為なの。貴方は外から来た方なのだから、穢れをまず禊がなければならない」
「しなくても護衛はできる」
「そういう問題じゃないの。ここで勤めるなら、ここの慣例に従わないと」
「俺は嫌だ」
「あのねえ……」
まるで子供が駄々をこねるようだ、とアザレアは呆れた。
渋っている彼へ、更に半歩近付く。シェドは嫌そうな顔を浮かべたまま数歩下がり、壁にぶつかった。
「この護衛を務める方を清めるだけでなく、初めての女を教える、という意味合いもあるのよ」
「……実家もグルか。クソ兄貴め」
シェドは忌々しげに毒づく。童貞を捨てるためよこされたというのは、確かに面白くはないだろう。
もう一押しとばかりに、アザレアは上目遣いで男を見上げた。壁に背を当てた姿へ、静かに肉薄する。
「こちらを気遣う必要もないわ。巫女は、名誉ある職として清めの儀礼を行っているのだから。さあ、私に役目を果たさせて?」
吐息と共に囁くと、アザレアは初めて会った時のように指を伸ばす。先に動いたのは、シェドだった。
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