プロローグ

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プロローグ

 暗い部屋に、荒々しい男の息遣いと肢体が跳ねる音が響く。唯一の光源である蝋燭が、男が情欲を女に注ぐ光景を露わに映し出す。  熱に浸された空間で、女の表情だけが異質であった。  組み敷かれた女は、この場に似つかわしくない程清らかな笑みを浮かべていたのだ。 「ああ、ああ、お赦しください!」  男が謝罪の言葉を紡ぎながら、腰を強く揺らめかせる。熱い杭で身体を貫かれながらも、女の笑みが揺らぐことはなかった。 「神の慈悲でもって、我が欲をお受け止め下さい、ああ……っ!」  男が感極まった表情で、何かを耐えるように身を震わせる。  汗で濡れた頬を、白魚のような指が優しくなでた。 「赦しましょう」  可憐な声が、男の鼓膜を甘く刺激する。  頬を撫でるさまは、母が子を抱くような温かさがあった。  長いまつ毛を伏せ、女は男の耳元で呟いた。  まるで甘言を囁く悪魔のように。 「神は全ての罪を受け入れてくださいます。さあ、どうぞ私の身体に、穢れをお移しになって?」 「巫女様……っ!」  声に導かれるように、男の腰の動きが再開する。汗でぬめった広い背中に手を這わせ、女はふと視線を横へとずらした。  燭台から数歩離れ、壁と同化するようにして。  男が一人、立っていた。  何をするでもなく、先程から眼前で繰り返される痴態をただぼうっと眺めている。その瞳に欲の炎は灯されておらず、いっそ暇で仕方がないと言わんばかりの態度だった。  つまらない男ね、と心中で毒づく。  男に呆れ混じりの感想を抱きながら、女は別の男に抱かれ続けていた。
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