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「――好きなんです、先生のことが」
これがラストチャンスだと、今まで胸に秘めていた想いを告げた。
その時の、先生の顔が目に焼き付いて。
卒業式から三日前のことだった。
*
卒業式の日、HR後、進路相談室。
この単語だけを聞けば青春の甘酸っぱい一ページが思い浮かぶけれど、今の俺の気分は最悪だった。
ため息を吐いて、元凶である小さな紙をぐしゃりと握り潰す。当然手応えなんてあるわけがなく、俺の気分が晴れることはなかった。
「なぁ、お前の手紙には何て書いてあった?」
背後から腕がにゅっと現れたかと思えば、俺の肩に回される。誰の仕業かと視線だけを向けると正体は友人だった。
「何もないよ。大学でも頑張れ、とかありきたりなこと」
”手紙”というのは先生からクラスメイト全員に渡されたもので、曰く「話したいことがたくさんあるけど、時間に限りがあるので手紙を書いてきました」ということだった。しかし、先生はいわゆるイケメンでかっこよく、教え方も丁寧で相談にもよく乗ってくれることから男女問わず生徒からかなり人気があった。そのため、長くは話せないことを皆残念がっていたが、形として手元に残る手紙を貰えたことに喜んでいた。
出席番号順に一人ずつ名前を呼ばれ、先生から手紙を渡される。突然の先生と面と向かう出来事の発生に俺は動揺したが、名前が後ろの方だったこともあり心の準備をして臨むことができた。と言っても、いざ目の前にすると緊張で手が震えてしまったのだけれど。あの距離だとさすがに気付かれてしまっただろうか、気付いてないといいな。
そして先生が教室を出て行ったあとは、手紙を読んだり卒業アルバムにメッセージを書き合ったりの自由な時間となった。俺も友人たちとメッセージを書き合いながら、その合間に手紙を読もうと封を開けた。
とにかく急いで読みたかったのだ。もしかしたら、三日前の返事が書いてあるのではないかと思ったから。
それが、わずか十分前のことで。
一枚目には「卒業おめでとう」など他の人にも書いているだろうお決まりの言葉が並んでいた。二枚目には一学期から三学期までの出来事を振り返って、それぞれ個人へ考えて書いたのだろう言葉が綴られていた。最後は「大学生活を楽しんで」と締められていたので、あの日に関することは書いてないと判断したその時、小さい紙が入っていることに気が付いた。
隠すように入れられたそれは、他の人にはないものだと瞬時にわかった。誰にも見られないよう、周囲に細心の注意を払いながらゆっくりと紙を開く。
『HR後 進路相談室』
――そして、今に至る。
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