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☆
「うわ、さすが魔王」
「なんてこと」
「こんなに強いのか」
「魔力が高すぎます」
ミオは自身が最強のつもりだったので、簡単に砕け散った氷の壁に対して驚いただけだったのが、ほかの仲間は何やら青ざめた表情をして絶望感を漂わせている。
(そんな悲観しなくても)
「こほっつ」
「ソフィア様!」
氷の壁がなくなり一気に炎の熱さと煙に巻かれ、聖女ソフィアが咳き込む。
「バリア」
最強の魔法使いのシルダ、慌てて炎から身を守る魔法を彼女にかけた。
(まあ、いいけど)
無敵の勇者となったミオは、その鎧に防御魔法が組まれているため、炎に囲まれても苦しくはない。
「バリア」
魔法使いシルダに忘れられた戦士タルカンがかわいそうだったので、ミオは彼に魔法をかけてあげた。
(最初から氷の壁じゃなくて、バリアを使えばよかったのか)
そんなことを思いながらゆっくり近づいてくる魔王を観察する。
身長は戦士タルカンと同じくらい、髑髏の仮面をつけて、黒いマントを羽織っている。その下にも黒い鎧を身に着けていた。
(ザ・魔王って感じだね。さっさと片付けるぞ)
元の世界で剣道部でもあり、その中性的な容貌から陰で王子扱いされることもあるミオ。
気合を入れて剣を握る。
「これが勇者か。貧弱だな」
「それは、あんたもそうだけど」
ミオにはそこまで感じられないのだが、魔王の魔力とその雰囲気に飲まれて、彼の仲間は言葉を発することもなく、ミオの傍に控えていた。
シールドを使っているとはいえ、魔力は無限ではない。
魔力が尽きれば火に巻き込まれて死ぬ可能性もある。転移魔法で王宮に戻るという手段を念頭に置きながら、ミオは剣を構える。
(この調子じゃ、一人で戦う感じだね。まあ、いいけど)
無駄に動いてもらって足手まといになってもらうのも困るので、彼女は仲間に期待することはやめ、一人で対峙することを決める。
その覚悟をわかったのか、魔王が笑い声をあげた。
「人間どもはやはり貧弱だな。お前を殺したら、一気に攻め込み、人間の世界を終わらせてやろう」
「そ、そんなことできませんわ。勇者ミオ様は強いのだから!」
後方から聖女ソフィアが叫ぶ。
(まあ、物凄い期待されてるね。まあ、私は強いからいいけど)
「ミオ?」
魔王はソフィアのセリフから、なぜか彼女の名前を拾って訝し気につぶやいた。
仮面の下で話している声はくぐもっている。
けれども聞き覚えのあるような声だった。
「私の名前がどうかした?魔王」
「なんでもない。女のような名前だな」
「女……。あんた、なんでそんなことわかるの?日本にいったことがあるの?」
「日本」
魔王の表情は髑髏の仮面に隠されてわからない。
彼の日本という発音がきれいな日本語だった。
異世界人ではありえない発音だ。
「もしかして、あんた。日本から来たの?なんで魔王なんか?」
「……うるさい。お前には関係ない。俺は魔王だ。お前を殺す」
急に魔王の口調が子供っぽくなった。
それが事実であると肯定しているようで、ミオは確信をつく。
「あんた、日本人でしょう?」
ミオの問いに答えることなく、魔王が先に攻撃に出る。
魔法で生み出された戦斧が彼女に振り下ろされた。
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