21 幸福な未来へ

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 金色の猫はヘルワに顔を寄せて興味を示している。 「女の子を見て野生の本能に目覚めたんだろう。健全な雄猫なら誰だってそうするさ。ヘルワは可愛い女の子だ」 「知らなかった。ヘルワって女の子だったのね! てっきり男の子かと思っていたのに。そうなんだ!」  金色の猫が求愛しているいうのは何となく分かる。 「あっ……。あの子たち……。やだぁ!」  稲科のガサガサと揺れる雑草の向こう側を覗くと金色の猫はヘルワに近寄ろうとしてギッと引っかかれていた。見事に求愛を拒否されている。金色のオス猫はビクッとしたような顔で足を竦ませている。よく見ると、優美な顔立ちの綺麗な猫だった。 「あはは! ふられているよ! カッコ悪いね! きゃはは!」 「笑うなよ! あいつ、あんなにしょげているじゃないか」  困ったように金色の若い雄猫がヘルワを眺めている。思いが伝わらなくて焦れる顔は切なげに見える。王子が、運河の水面を見つめながら、ディディの隣に腰を下ろしながら言う。 「最近、おまえは代書屋の仕事をしているらしいな」  彼は、クシャクシャになった紙を帯の隙間から差し出して笑っている。 「ディディ、これは、一体何の暗号なんだ?」  それは、書くのを途中でやめて捨てた手紙だと気付いて慌てた。 「こんなもの、見なくていいんですよ!」 「昨日、オレのところに届いたよ。読んだ奴は、みんな、首をかしげていた。紙がくしゃくしゃだな……」  セルディーが勝手に王子に送ったのだろうか……。でも、どうして? 「王子は、これだけであたしが書いたと分かったのですか?」 「分かるよ。おまえの文字は綺麗だし、言いたいことも分かる」  乾いた風が頭上で咲いている藤色の花を優しく揺らしている。砂塵のせいで黄色く曇った空があまやかに広がっている。  アズベール特有の白い家並みが続いている。街全体が眠たげに夕刻を迎えている。すぐ目の前に赤土を含んだ運河が広がっていた。川面は、夕日の色に染まりキラキラ輝き続けている。 「王様の側にいなくていいんですか」 「側にいてもオレの声も聞こえていないよ。もう、オレも覚悟はできている」  二日前から王は危篤状態に陥っている。賢人会の会議で、どちらの王子が王位継承するのか話し合われたのだが、アルバ本人が、『兄を推したい』と強く希望した結果、王位継承権がレイ王子のものとなったというのてある。 「事件のせいて、いろいろ忙しくて参ったよ。今朝、やっと落ち着いたんだ。ディディのことを忘れたことなんかなかったよ。ずっと、心に思い浮かべていたよ。オレはディディのことを……」  王子に会えたことが嬉しくて興奮してきた。だから、胸を弾ませながら、ここぞとばかりに慌てて訴えていく。
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