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八年前の戦争に負けて以来、ルビトリア王国は砂漠の大国であるアズベールの政府機関よって統治されている。つまり、アズベールの属州となったのだ。
「おまえ、やけに童顔だな。新入りか?」
「こう見えて、もう十七歳でございます。一年前に欠員が出たので知恵の館で採用されたのでございます」
「そうだろうな。じぃ様は、おまえの顔が可愛いからという理由で採用するよう事はしないからな」
「も、もちろんでございます」
書記長は王の父方の叔父にあたる人物だ。大昔は、書記長も昔は王子様だったのだが、なぜか、生涯、独身を貫いている。
「あの、ところで、王子様は、このような場所で何をなさっておられるのでしょうか?」
「赤の砂漠に関する資料を探しに来た。おまえは反政府組織のことはを知っているか?」
「はい。赤の砂漠地帯にいる遊牧民達のことですね、オアシスで略奪を繰り返していると聞いております」
その時、王子は、手を伸ばして三冊の本をザッと掴んだ。あっーーと、ディディは叫びそうになるが、おっと危ない。かろうじて言葉を飲み込んだ。その時、王子はチラッとディディを見つめたが、ディディはお目当ての書籍を取られた悔しさを押し隠すしかない。
「そいつらは西区で出稼ぎをしながら仲間を集めていることをオレの密偵が聞きつけた」
その密偵こそが、ハマムでグンテルに食って掛かっていた生意気な少年なのだが、そのことをディディは知らない。
「それとは別に、王都の西区でサリンダが率いている荒くれ者達が、役人達といざこざを起こしているらしいな。反乱軍と関係あるのかもしれない」
「誤解でございます。彼等は荒くれ者ではありません。賄賂を要求する軍人や役人と対立しているだけなのです」
「ほほう、やけに、サリンダに関して詳しいのだな」
「ぼ、僕は、西区の人間でございますから」
「そうか。なるほどな。ところで、おまえは、ここで何をしているのだ?」
「僕と書記長様は伝記を編纂しております。しかし、僕は、この国の王家の歴史を知っているとはいえません。ですから、暇をみつけては過去の王様の伝記を読み込んでおります」
「それならば、今日のやりとりも伝記に付け加えるように、じぃ様に教えてやればいい。今から言うぞ。紙と筆を用意しょうか?」
「いいえ。暗記します!」
いきなり何を言い出すのかと思いきや、なぜか、澄ました顔で王子が朗々と語り始めたのである。
「それは、王子が二十三歳になったばかりの春の日の午後のことであった。王子が書庫で佇んでいると、女のように愛らしい顔の書記の少年が馬面の上司に襲われそうになったのだ。それを見かねて、王子は書記の貞操を守ったと書いておけ」
ディディが訝しげに見つめ返していると、彼は、フッと苦笑したように唇を歪めた。
「冗談だよ」
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