ふたり

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 これはボクが思い出す度に、気恥ずかしさに襲われるエピソード。まだ誰にも話してないんだけど、よかったらちょっと聞いていってくれる?  ソファに腰掛けて寛ぐ、ボク(=ルミ)のつむじに向けて声が降る。何事かと仰ぎ見れば、いつの間にか帰ってきたらしいルカが、神妙な面持ちでこちらを見ている。ボクはさも何でもないような調子で、呼びかけに応える。 「ルミさーん?」 「うんー?」 「今ちょっとよろしいですか?あなたに、とても大事なお話があります」 「何、どしたん?」 「昨日私が買ってきて、冷蔵庫に入れておいたはずのプリンが……忽然と姿を、消したんですよ」 「それは何とも面妖な」 「そうです、摩訶不思議な事件が起きました。家に帰れば美味しいおいしいプリンが待ってるんだぜ~!と気合いでデスマを乗り切って、帰ってきたらこの有様ですよ。私の愛しいプリンちゃんを、勝手に食べたばかりか、白々しい演技まで披露してくれている犯人は、この中にいます」 「な、なんだってー!」 「今、ここにいる人物は、私か、目の前にいるプリン泥棒だけですね?」 「あー、ごめん!冷蔵庫開けたらうっかり目が合っちゃって。ヤバいと思ったが、食欲を抑えられなかった的な感じで美味しくいただいてしまいました……」 「まぁ何て邪知暴虐な所業でしょう……それで、近日中にお詫びの美味しいプリンが、ちゃーんとご用意されるんですよね?」 「ええと、忘れなかったらご用意されます……」 「毎回抽選倍率がバグり気味な、私の推しのライブチケットより、それはもう確実にご用意される事を期待しています」 「う、うん。大丈夫なはず……」  そんな軽過ぎる口約束をしてから数日が過ぎていた。ボクはものの見事にプリンのご用意を忘れ去り、ようやく思い出したのは、10日程経ったある夜更けだった。お風呂上がりに髪を乾かしているとき、ふと詫びプリンを買っていない事を思い出した。とは言え今から買いに出るには、色々と躊躇われる時間。正直に謝ろうにも、ルカは夜勤のため、自分が眠っている間に帰って来る予定だった。  ふーむ困ったぞ、何かいいアイディア、その辺に落ちてないかな。首を傾げながら、テーブルの周りをグルグル回っていると、壁に貼ったカレンダーが目に留まった。そうか、誕生日……!もうすぐアイツの生誕祭だ。今年のお祝いは、美味しいディナーのお店を予約しようと考えていた。どうせならおめでたい席で、サプライズのひとつでもお見舞いしてやろう。お祝いとお詫びが同時ってアリなん?という疑問が浮かんだ瞬間、秒で明後日の方向へ追いやった。これは我ながら名案だ~と、浮かれつつスマホでお店を探す。なるべく近場で、穴場スポットはないものか。  食レポサイトを渡り歩きながら、またしても妙案が浮かんだ。ボクの友人が、今や巷で人気沸騰のビストロ店で働いている。日々賑わっているのは間違いないが、曜日と時間によっては、落ち着いた食事を楽しむことができるのだ。あそこならにも協力してくれそうだ。この時間でも営業しているらしく、すぐに連絡して事情を話すと、二つ返事で協力を取り付けられた。よーし、ちょっくら驚いてもらいますかー。
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