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本当の金持ちとはこういう人たちのことをいうのだろう。
一人娘の誕生日パーティーにここまでするだろうか。
大広間には数えきれないほどのテーブルが並び、どのテーブルにも一度は見たことがあるような俳優やスーパースターが楽しそうに歓談している。
世界的に有名な管弦楽団も彼女の誕生の祝福を祝っている。
僕、リチャードは予想以上の規模の大きさに委縮していた。
僕の家だって決して貧しい暮らしはしていない。
社交界にだって参加したことはある。
だがここまでの規模のパーティーには参加したことがない。
そんな経験をまさか同級生の誕生日パーティーでするとは思わなかった。
僕はいたって平凡な商人の息子だった。
代々、種苗を取り扱う家庭で土と植物とにらめっこをし続けるはずだったがお父さんの代で大きな事件が起きた。
僕の家で取り扱うチューリップの柄が急に脚光を浴び始めたのだ。
それまでうちで作るチューリップはどうにもきれいに単色の柄が出なかった。
そんなチューリップを世間は
「それまでは赤と白が混じって気持ち悪い。」
「チューリップは単色に限る。」
といった風潮だったものがとある有名貴族のにはに混色のチューリップが一面に植えられていることがきっかけで世論が急に変わった。
「チューリップは色のコントラストが決め手だ」
「やはりチューリップは混色に限る」
といった風潮が主流になった。
そうして僕の家はこの地域で一番の種苗屋となったのだ。
要するに僕の家庭は成金なのだ
当時の話を父から聞いた時は人の好みというのはいかにもあいまいな基準で決まると子供ながらに思ったものだ。
僕たちのご飯は流行りを追いかけることでしか社会の優位性を保つことのできない貴族たちの「見栄」というふわふわしたものに支えながら生きている。
貴族の人たちの生活ぶりは嫌いではなかったけど特に好きではなかった。
特に僕たちが丹精込めて育てたチューリップでこしらえたと思われる太った姿や卑しい口元や目線を見ただけで気が滅入った。
だから僕は父親に勧められた上流階級の子供が通う高校に通うことはあまり気が乗らなかった。
幸い、学力のほうはこつこつと積み上げてきたものがあり特に困ることはなかったし経済面でも恵まれている僕は特に入学に関して困ることはなかった。しかし、金持ちというのは父さんのように運がよかったか卑しい守銭奴みたいなひとしかいない正直に思っていた。
僕の予想はあらかた間違っていなかったが学校に入ってからは自分の見識の狭さを実感した。
クラスメイトの割合は僕の体感だが山が当たったものが2割、金にがめつい連中が4割、一念発起しようと勉学のみで推薦を勝ち取ったものが3割、残りの1割が本当の金持ちといったところだった。
その中でも異彩を放っていたのはソフィアだった。
いわゆる1割のなかの本当の金持ちのなかでも3本の指に入るほどの資本家だったのだ。
彼女はそれだけでなく、勉学も、芸術も武術も秀でており学園内でも目立つ存在だった。
まさしく学園のなかの高嶺の花といった存在だろう。
そんな彼女との共通点は園芸部に入っていることだった。
花が好きな彼女とは話が弾むことが多かった。
同性の友人からは冗談まじりに
「おい、リチャード。いい感じじゃねえか」
とからかわれることはあったが僕はどうにも自身が持てなかった。
一介の種苗屋の僕はきれいな花を咲かせることはできてもすでに咲き誇っている花を手に取る勇気はなかった。
そんな中、彼女に誘われたのがこの誕生日パーティーだ。
ここでどうにか男を見せるぞとスズランの花を用意した。
花言葉は純粋。
彼女の優雅なふるまいな奥に隠れる純粋さを今日伝えるんだ。
と、意気込みこのパーティにきた。
ソフィアを探そうときょろきょろ当たりを見渡しているとブロンドの髪と大きなリボン。そして特徴的なきれいな緑色の目をした彼女を見つけた。
少し二人で話をしたいと呼びつけ僕は彼女と二人きりになることができた。
「あら、リチャードじゃない。来てくれてありがとう!」
彼女は目をきらきらさせながら僕を迎えてくれた。
「いやいや。こちろこそ。ちょっと渡したいものがあるんだけど……」
そういって僕はすずらんの花を渡した。
「これ、うちの種からできた一番いいスズランなんだ。純粋なあなたに惹かれました。僕の気持ちどうか受け取ってください!」
心臓が飛び出るほど緊張しながら僕はそういった。
それを受けた彼女は僕の顔に手を指し伸ばしながらこういった。
「ありがとう。リチャード。でもね。私が欲しいのはきれいな花束でもなく、リチャードのくれたような純朴な言葉でもないのよ。私が望む誕生日プレゼントはあなたよ……。わかってもらえて?」
彼女の目からは品性の仮面もなくただとろりと僕を見つめていた。
純粋。
彼女はいたって純粋に僕を求めていた。
それは僕の思っていた純粋な彼女とは違ったものだった。
怪しげな眼に移る艶っぽさに見つめられた瞬間から僕はもう彼女に心を囚われてしまった。
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