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 この物語を、最後の一文からはじめることにしよう。  ――わたしは、顔をべちゃべちゃに濡らしながら床掃除をしていた。  手には大きなゴム手袋をはめ、近くには大きなゴミ袋が置いてあった。ゴミ袋からはプウンとあの嫌な臭いが持ち上がっていて、……それを嗅ぐ度にわたしの涙腺は壊れた。  床に転がっていたものをあらかたゴミ袋に収め終わった後、わたしはあらかじめ水をためておいたバケツへ体を向けた。雑巾をしぼり、床を拭く。手では取りづらかった汚れなどを丁寧に落としていく。  母がハウスキーパーの仕事をしていてよかった。  掃除の手順がなんとなく分かるから。  わたしは、チラチラと時計を気にしながら掃除を進めていく。  秒針がくるくる一回転する度に、やっぱりわたしは泣いてしまった。  頭では両親がいつ帰ってくるかなと考えながら、心がじゅくじゅく痛んで汁が出た。だから、こんなにボロボロ泣いてしまうのだと思う。  ――わたしは、顔をべちゃべちゃに濡らしながら床掃除をしていた。  仮にわたしの身の上に起こった出来事を「物語」として扱うなら、……最後の一文はこれに決まりだろう。  最低・最悪な物語の閉め方だ。  わたしは、ズズ……と鼻をすすりながら、ぽつんと呟いた。
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