灰に叫んで花を焚く

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 高校二年の冬。  おれは、終業式の少し前の夜、着信音が鳴ったスマートフォンを耳に当てた。  相手は、沙也加だった。  聞き慣れた声。聞き慣れた口調。しかし、その内容は、思ってもいないものだった。 「できたよ、できた! 私、子供できた!」  沙也加は俺と同じ高校二年生だ。来年は二人とも大学受験をする。どこを受けるかも、気が早いことに、俺たちはとうに示し合わせていた。  おぼろげだけどそれなりに平和そうな人生設計が、いきなりがらがらと崩れていく。  不誠実だと思いながらも、俺は喜びよりもショックの方が多きかった。  子供って、誰の? と口に出さなかったのは――本当に確認という意味だけしかなかったとしても――、おれの人生最大のファインプレイだったかもしれない。  だが、それを見透かしたように、沙也加は告げてきた。 「当然、タカハシの子供だからね。あたし、他に心当たりなんてないから」  分かっている。子供ができるようなことをしたから、できた。それだけだ。彼氏と彼女なのだから、そういうことをする。した。だからできた。言葉が頭の中でぐるぐる回る。  混乱していたとはいえ、先ほど子供の親を訊かなかったのがファインプレイなら、次にこう口走ってしまったのは、大ファンブルだったと言えるだろう。 「それで……沙也加は、どうしたいんだよ……?」 「どうって、何が? 選択肢は何と何? ほっほおー……」  しまった、と思った時には遅かった。電話の向こうで、沙也加の顔色が変わったのを悟る。 「いや、待っ……」 「くぉのっ、冷血漢! 人でなし! なんでそんなこと言えるの、最低!」 「ち、違う! おれはただ、沙也加の人生が――」 「そうよね、あたしの(・・・・)人生よね! 一人でだって育ててやるから、見てなさい! いーや、見てなくていいわ! もうあたしに近寄らないで!」  快活な代わりに、一度火がつくと天井知らずに燃えることがある。沙也加との付き合いは小学校から続いているが、おれはいまだにこの性質を手なづけることができずにいた。そして。 「もう顔も見たくない、大っ嫌い!」
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