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翌日の昼休み、学校の屋上。
ドーム状のフェンスで覆われたこの場所は、暖かいとこぞって人がやってくるが、今日は冷え込んでいるせいで、ひとけがない。
「ほお。それで、沙也加ちゃんほっぽって、こんなところで焼きそばパンをかじってるわけだ」
高一からつるんでいる弓川歩が、退屈そうに弁当をつつきながら言ってくる。出しっぱなしのシャツの裾は、なぜか教師から注意されないが、確かにこいつの場合は妙な清潔感があった。
「……なんで弓川が事情知ってんだよ」
「朝一で、沙也加ちゃんから聞いたんだよ。でっかい声で、校門前で出合い頭に、『ちょっと聞いてよ』って。周りに人がいなかったからいいものの、高校生じゃちょっとした事件だからな。暇人どもにどう噂されるか分からないから、もう少し控えなって言っといたけど」
「……サンキュ。あいつ、弓川のことは信用してるんだろうな」
「光栄だね。でもそれも、僕がお前の友達だからだろ。仲直りしろよ」
弓川は、茶色いボブカットにした髪の毛先を指先でくるくるともてあそぶ。しょうがねえなこいつ、と思っている時のしぐさだ。
「おれは振られたんだよ。ゆうべ、大っ嫌いって言われちまったし」
「それで嫌いになったのか? お前は?」
「……そんなわけないだろ。好きだよ、ずっと」
そうだ。冷血漢でも人でなしでも、それだけは言える。
「弓川はどう思う? 沙也加の子供のこと」
「私情抜きでいいなら言えるよ。沙也加ちゃんのことだと思うとさすがにきついけど」
「見知らぬ他人なら」
「諦めた方がいいと思う。若すぎるし、環境もあまりよくないだろう」
「だよなあ」
沙也加の両親は、おれは子供の頃から知っている。いい人たちだが、今の年齢での沙也加の出産を喜びはしないだろう。
生むとなったら、おれが沙也加と一緒に頼み込むのだろうか? あの人のいい夫婦に、娘の人生の大きな路線変更をごり押ししにいくのか?
天を仰いだおれの横に、弓川が顔を寄せた。
「お前はどう思ってるんだ」
「お、おれ?」
「当たり前だ」
「正直に言えば、……まだ早いと思う。あれから、色々調べたんだ。高校生で母親になると、どんな人生を送るのか。まあ、検索しただけだけど」
「で?」
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