灰に叫んで花を焚く

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■  翌日の昼休み、学校の屋上。  ドーム状のフェンスで覆われたこの場所は、暖かいとこぞって人がやってくるが、今日は冷え込んでいるせいで、ひとけがない。 「ほお。それで、沙也加ちゃんほっぽって、こんなところで焼きそばパンをかじってるわけだ」  高一からつるんでいる弓川歩(ゆみかわあゆむ)が、退屈そうに弁当をつつきながら言ってくる。出しっぱなしのシャツの裾は、なぜか教師から注意されないが、確かにこいつの場合は妙な清潔感があった。 「……なんで弓川が事情知ってんだよ」 「朝一で、沙也加ちゃんから聞いたんだよ。でっかい声で、校門前で出合い頭に、『ちょっと聞いてよ』って。周りに人がいなかったからいいものの、高校生じゃちょっとした事件だからな。暇人どもにどう噂されるか分からないから、もう少し控えなって言っといたけど」 「……サンキュ。あいつ、弓川のことは信用してるんだろうな」 「光栄だね。でもそれも、僕がお前の友達だからだろ。仲直りしろよ」  弓川は、茶色いボブカットにした髪の毛先を指先でくるくるともてあそぶ。しょうがねえなこいつ、と思っている時のしぐさだ。 「おれは振られたんだよ。ゆうべ、大っ嫌いって言われちまったし」 「それで嫌いになったのか? お前は?」 「……そんなわけないだろ。好きだよ、ずっと」  そうだ。冷血漢でも人でなしでも、それだけは言える。 「弓川はどう思う? 沙也加の子供のこと」 「私情抜きでいいなら言えるよ。沙也加ちゃんのことだと思うとさすがにきついけど」 「見知らぬ他人なら」 「諦めた方がいいと思う。若すぎるし、環境もあまりよくないだろう」 「だよなあ」  沙也加の両親は、おれは子供の頃から知っている。いい人たちだが、今の年齢での沙也加の出産を喜びはしないだろう。  生むとなったら、おれが沙也加と一緒に頼み込むのだろうか? あの人のいい夫婦に、娘の人生の大きな路線変更をごり押ししにいくのか?  天を仰いだおれの横に、弓川が顔を寄せた。 「お前はどう思ってるんだ」 「お、おれ?」 「当たり前だ」 「正直に言えば、……まだ早いと思う。あれから、色々調べたんだ。高校生で母親になると、どんな人生を送るのか。まあ、検索しただけだけど」 「で?」
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