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そういえば、おれが沙也加の家に入るのは、久し振りだった。
チャイムを鳴らすと、出迎えてくれたおばさんは、少し複雑な顔をした。おれが振られたのを知っているからだろう。
「あ、こ、こんにちはおばさん。沙也加います?」
「ど、どうもねーしばらく振りね航平くん。まだあの子帰ってないのよ。部屋で待つ?」
さすがに追い返すわけにはいかなかったのだろうが、おれも勝手に部屋まで入るのはどうかと思い、リビングで待たせてもらうことにした。
沙也加には連絡を入れていなかった。くるなと言われるに決まっていたから。
待つこと十数分、沙也加は帰ってくるなりリビングのドアを跳ね飛ばすように開け、
「たっだいまー!」
「おっかえり」
「……なんであんたがいるのよ」
そう言って露骨に顔を曇らせた。
沙也加の、無造作に切ったセミロングの髪は、微妙なシャギーを作って、小さな顔を囲んでいる。身長は百六十センチに満たないことを気にしていたが、制服のスカートから伸びた足はすらりと長い。
「相変わらずかわいいな」
「気色悪いわ変態。まあいい、何かあたしに話つけたいことがあってきたのよね? 部屋に上がんな」
くい、と沙也加があごで階段を示す。
そうして招き入れられた沙也加の部屋は、最後に見た時とあまり変わっていなかった。もともと物が少ないので、新しいらしい本棚と、新調したらしいまくらがやけに目立つ。
沙也加が勉強机の椅子に座り、おれはベッドに座らせてもらった。
「沙也加、あの様子だとおばさんにはまだ言ってないんだな?」
「お父さんと一緒にいるタイミングを狙ってるのよ。で、なんの用?」
「単刀直入に言う。子供は諦めてくれ」
すう、と沙也加の目が細められた。
「あたしの子供なんですけど?」
「沙也加は、今子供を持つことに向いてない」
「な……」
逆鱗に触れるどころか蹴り上げる覚悟で、そう言った。案の定、沙也加の目が吊り上がる。
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