灰に叫んで花を焚く

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■  そういえば、おれが沙也加の家に入るのは、久し振りだった。  チャイムを鳴らすと、出迎えてくれたおばさんは、少し複雑な顔をした。おれが振られたのを知っているからだろう。 「あ、こ、こんにちはおばさん。沙也加います?」 「ど、どうもねーしばらく振りね航平くん。まだあの子帰ってないのよ。部屋で待つ?」  さすがに追い返すわけにはいかなかったのだろうが、おれも勝手に部屋まで入るのはどうかと思い、リビングで待たせてもらうことにした。  沙也加には連絡を入れていなかった。くるなと言われるに決まっていたから。  待つこと十数分、沙也加は帰ってくるなりリビングのドアを跳ね飛ばすように開け、 「たっだいまー!」 「おっかえり」 「……なんであんたがいるのよ」  そう言って露骨に顔を曇らせた。  沙也加の、無造作に切ったセミロングの髪は、微妙なシャギーを作って、小さな顔を囲んでいる。身長は百六十センチに満たないことを気にしていたが、制服のスカートから伸びた足はすらりと長い。 「相変わらずかわいいな」 「気色悪いわ変態。まあいい、何かあたしに話つけたいことがあってきたのよね? 部屋に上がんな」  くい、と沙也加があごで階段を示す。  そうして招き入れられた沙也加の部屋は、最後に見た時とあまり変わっていなかった。もともと物が少ないので、新しいらしい本棚と、新調したらしいまくらがやけに目立つ。  沙也加が勉強机の椅子に座り、おれはベッドに座らせてもらった。 「沙也加、あの様子だとおばさんにはまだ言ってないんだな?」 「お父さんと一緒にいるタイミングを狙ってるのよ。で、なんの用?」 「単刀直入に言う。子供は諦めてくれ」  すう、と沙也加の目が細められた。 「あたしの(・・・・)子供なんですけど?」 「沙也加は、今子供を持つことに向いてない」 「な……」  逆鱗に触れるどころか蹴り上げる覚悟で、そう言った。案の定、沙也加の目が吊り上がる。
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