灰に叫んで花を焚く

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「おれは沙也加の人となりは、少しは分かってるつもりだ。今出産と子育てをするのは、沙也加のためにはならない。お前、ゲーム作る会社に入りたいんだろ? 夢だって言ってたよな」  沙也加がぐっと言葉に詰まった。 「その夢を諦めるどころか、いきなり選択肢として外されて、それでも後悔しないって言えるか?」 「勝手に、そんなこと決めないでよ……あたしが頑張れば、無理とは限らな」 「おれは子供を持ったことはないよ、でも沙也加のことは知ってる。後悔した時、お前は、自分の子供が原因だって恨むようなことはしないだろう。それは立派だよ、でもその辛さの持って行き場なんて、お前にあるのか?」 「だから、決めつけないでってば!」 「こんなの、おれだってうまくないやり方だと思ってるよ。『産もうよ、産めばいいよ』って焚きつけた方が、むしろ沙也加が冷静になってくれる気がする。でもおれは、沙也加に駆け引きなんてしたくないんだよ」  沈黙。  徐々に、沙也加の視線が下がっていった。うつむいているせいだ。そしてぽつりと、 「なんで……?」 「え?」 「なんでそんなに、一生懸命になってくれんの。あたしたち、もう別れたじゃん」 「別れたら大事に思っちゃいけない、なんてことはないだろ」  また、短い沈黙。  沙也加の目じりには、透明の粒が溜まっていた。 「でも……だって」 「だって、なんだよ……?」 「あたし、タカハシの赤ちゃん欲しい」  弾けるような眩暈がした。まるで、頭の中を平手打ちされたみたいに。  分かっていたのに。沙也加の気持ちは。本音は。聞きたくなかった。覚悟をしていたのに、たまさか、ノーガードでくらってしまった。  思っていた以上の衝撃。おれは、別れたくせにまだこんなに沙也加のことが好きなのかと思い知らされる。 「欲しいのよ、どうしても! だって――」 「だってなんでだよ!?」  思わず、おれの声も大きくなる。 「――だってこのまんまじゃ、まるでタカハシ、この世にいなかったみたいじゃん! 航平はそれで平気なの!?」 「タカハシのことは、おれや沙也加や、弓川が覚えてればいいんだよ! 子供なんていなくたって、忘れねえよ!」  うああああ、と沙也加が泣き崩れた。  勉強机の上には、タカハシと沙也加が二人で映った写真が置かれている。タカハシの両親から、形見分けでもらったペンケースも。  タカハシカツキは、二ヶ月ほど前に死んだ。国道の脇で、交通事故で。  おれは立ち上がった。  沙也加に背中を向けて、ドアを開ける。 「本当は、どんな決断だってさ、間違えるなんてことはないんだと思う。……怒鳴ったりして、悪かった」  なぜおれは、神野(じんの)航平なんだろう。なんで、タカハシじゃないんだろう。  そう思いながら、沙也加の家を出た。
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