灰に叫んで花を焚く

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■  自分の家に帰り、部屋に入って、ベッドに体を投げ出した。  もう外は暗い。冬の夜は嫌いだ。寂しすぎる。  沙也加のことは、小学校高学年の時には、もう好きになっていた。中学二年の時に告白して、彼氏彼女になった。  ずっと二人で、隣り合って生きていくと思っていた。  高校に入って、タカハシと最初に友達になったのはおれだった。  同じく仲良くなった弓川とタカハシに、沙也加を紹介した。  それからわずか半年。  おれの前で、おれの彼女だった沙也加が、恐ろしい勢いでタカハシに惹かれていくのが分かった。同時に、タカハシも沙也加に。  二人は、決して自分たちの気持ちを表に出さなかった。その代わりに、自分たちの想いを無視することも、軽んじることもできなかった。  おれは、おれという人間が、ちょっとしたアクシデントで沙也加と早く出会ってしまっただけの、ただのモブキャラだと気づかされた。  タカハシと沙也加。結ばれるべきなのはこの二人なのだ。  それがどんなに辛くて、みじめで、凄まじい罪悪感にとらわれる日々だったか、思い出すのも嫌だ。  高校一年のクリスマスが近づくころ、おれは決意を固めた。  沙也加に嫌われるために、あらゆることをやった。  沙也加と別れなくてはならない。それも、おれの方が振られなくてはならない。振られる方が、振る側よりもみじめなはずだと信じて、そうした。それすらも幼さだったとしても、他にできることはなかった。  クリスマスの日に、沙也加と別れた。おれが振られたんだと言い張った。そうしておれは、彼氏から元カレになった。  それでも沙也加は、すぐにタカハシとくっつこうとはしなかった。  背中を押してやらなくてはならないかと思ったのは、杞憂だった。  タカハシは、沙也加よりも、おれなどよりもはるかに情熱的な男だった。  おれにははっきりと言わなかったけれど、一月が終わる前には、沙也加を押し切って付き合いだしていた。  そして、バレンタインの日に、二年以上も付き合っていたおれがとうとうできなかった、キスの先へ二人は至った。
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