一日目

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一日目

 どうしよう。  私は下駄箱の前に立ち尽くしていた。  だけど、私の上履きが入っているはずの場所には何もなかった。 「邪魔なんだけど」  声のする方を振り向くと同じクラスの夕菜が私をジトっとした目で見ていた。 「あ、ごめん」  そう言って私は隣のクラスの下駄箱の方に避けた。  どんっ  人にぶつかってしまった。  隣のクラスの子だろう。迷惑そうな顔で私を一瞥してから横を通り過ぎていった。  いつの間にか昇降口から人がたくさん入ってきていた。  ここに居たら邪魔になっちゃう。  そう思い、私は靴下のまま廊下に出て教室に向かった。  教室に入ると、一瞬クラス中の視線が集まった、ような気がした。  気にしないようにして私の机に向かう。 「白土(しらと)お前、服ダサいぞ」 「髪型もおかしいよ」 「つか、あいつのリュックぼろくね?」  男子から侮蔑、嘲笑、罵倒の声が飛んでくる。  胸のあたりがチクチクする。  だけど、こんなの序の口だ。 「おはよう」  席に着き、隣の席の由香に声を掛けた。  「喋りかけないで、気分が悪くなる」  とこちらを見ずに強い口調で言った。  由香とは仲がいいだけにかなり傷付いた。  三時間目が終わって休憩時間、私はトイレにいた。  教室にいると嫌な気持ちになるから。短い時間でも離れたかった。 「ホントにやるのー?」 「当たり前じゃん」  そんな声と蛇口から水が出る音が聞こえた。  何をやっているんだろう。  そう思っていたら、何かが上から落ちてきて、頭に当たった。  それは頭から上半身、床へと勢いよく落ちていった。  上を見上げると隣の個室との壁の上にバケツを持っている手があった。 「あはははは」  笑い声が遠ざかっていく。  もうすぐ四時間目が始まるのだろう。  行かないと。  立ち上がり、ドアを開ける。  体中から水が滴り落ちる。  頭と上半身が冷たい。  下着も濡れている。  ただでさえ寒いのに水で更に体温が奪われる。  夏だったら寒くはなかったな。  ああ、でも下着が透けちゃうか。  チャイムが鳴った。  ああ遅刻だ。  取りあえず髪を軽く絞って教室に向かった。  冬服は水がしみにくい素材だったのでわりとすぐに乾いた。  それからも悪口を言われたりしたが、何も起こらず終礼を迎えた。  結局、上履きは見つからなかった。    
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